<スポーツする人の栄養・食事学/第2章 スポーツをする人はなにをどう食べたらいいのか(6)>

Q、スポーツドリンクを飲むことで、どのような効果が期待できますか?

A、スポーツドリンクには、水分や塩分(電解質)補給を主体としたハイポトニック飲料と、糖分濃度の高いアイソトニック飲料があります。アイソトニック飲料は、長時間の運動のエネルギー源になり、パフォーマンスの維持・向上につながります。水溶性ビタミン、アミノ酸、クエン酸を含むものもありますが、糖分と塩分補給に絞った飲用が望ましいところです。

科学的根拠による糖質の濃度が重要

市販されているスポーツドリンクには、水分やナトリウムだけではなく、運動時のおもなエネルギー源である糖質を補給できるものが多くあります。エネルギー補給の効果をもたらすためには、その糖質の濃度を科学的根拠に基づいてどのくらいに決めるかが重要になってきます。

糖質の場合、胃から小腸への移動がポイントの1つです。その段階で、糖質の重量濃度(g/100ml)がある基準以上に高くなると、胃から小腸への水分の供給量が頭打ちになり、それにともなって、小腸での水分の吸収が遅れてしまい、水分補給にとってはマイナスの状況になります。

そうならないための糖質の濃度は、8%程度までに抑える必要があることが分かっています。スポーツ栄養学の数多くの研究でも、糖質の濃度が4~8%のスポーツドリンク(溶液)を摂取すると体への水分と糖質の吸収が速く、長時間(およそ90分以上)の持久力を必要とする運動パフォーマンスの維持・向上が期待できます(下の図)。それ以上濃度が高くなると効果が認められないと結論付けています。反対に、甘さを抑えたいという理由から水で薄めすぎても効果は小さくなります。

ハイポトニックとアイソトニック

スポーツドリンクには、ハイポトニック(低張性、低張液)飲料やアイソトニック(等張性、等張液)飲料とよく表示されています。

ハイポトニック飲料は、糖質や塩分(電解質)濃度が低く、さらに浸透圧も低いので、特に運動による発汗量の多い夏場は、水分が腸管で速く吸収されます。糖質が抑えられているために、減量時にも向いています。熱中症など激しい脱水のときに水分補給としてすすめられる「経口補水液」も、ハイポトニック飲料の部類に入ります。

いっぽう、アイソトニック飲料は、糖質や塩分の濃度が高く浸透圧が人の安静時の体液と同じですので、安静時や特に発汗量の少ない冬場は、水分の吸収よりエネルギー補給が優先されます。長時間の運動のエネルギー源になり、パフォーマンスの維持・向上につながるのは、このアイソトニック飲料です。

マラソンランナーが、給水所に自分でアレンジしたスペシャルドリンクを準備していることがよくあります。レースの前半では、水分や塩分補給を主体としたハイポトニック飲料、レースの後半ではエネルギー補給のために糖分濃度の高いアイソトニック飲料を置く傾向が強いようです。

100mlあたり40~80mgのナトリウム

糖分以外に、スポーツドリンクに含まれる不可欠な成分は、ナトリウム(塩分)です。発汗によって水分とナトリウムが同時に体外に排出されますが、水分だけ補給すると体液が薄まり低ナトリウム血症を引き起こします。そこで、100mlあたり40~80mgのナトリウムが含まれるスポーツドリンクが推奨されています。

ほかにも、発汗によって失いやすい水溶性ビタミン(ビタミンB群とビタミンC)、たんぱく質を構成するアミノ酸(BCAA[バリン・ロイシン・イソロイシンの総称]、アルギニン、グルタミンなど)、エネルギー代謝の中心的な役割をはたすクエン酸といった成分を含むスポーツドリンクもあります。

しかし、成分によっては胃がもたれたり、経口摂取での有効性がまだ科学的に認められていないものもあるので、糖質と塩分補給に絞った飲用をメインにするのが望ましいかもしれません。

(つづく)