誰かと食事をすることは、基本的なコミュニケーション行動の1つだが、それがとれなくなり、孤食となった高齢者が死亡や抑うつのリスクを増加させていることは、これまでの研究でも報告されていた。一方で、高齢者で歯を失った人は閉じこもりが多いことが報告されており、最近の研究では、孤食とオーラルフレイルにも関連があることが示唆されている。

孤食の高齢者の死亡や抑うつのリスクが増加

これまでは、入れ歯(義歯)やブリッジ等の補綴(ほてつ)装置使用の有無を含めた歯の状態と孤食との関連は明らかではなかったため、このほど東北大学大学院歯学研究科の小坂健教授らの研究グループが、65歳以上の要支援・要介護状態にない約15万6000人の高齢者(女性が53.8%、平均73.7歳)を対象に調査を行った。その結果、歯や義歯の利用状態が悪いほど孤食が多く、歯の数が20本以上の人に比べて、10本未満で義歯等を使っていない人では孤食のリスクが1.81倍も高いことが明らかになった。この傾向は、誰かと同居している高齢者に比べ、1人暮らしでより強いことも分かった。

歯の数が10本未満で入れ歯を使っていない高齢者は孤食に1.81倍なりやすいの図

15万人以上の歯の状態と孤食との関連を調査

研究では、歯の本数(20本以上/10~19本/10本未満)と義歯・ブリッジ等の補綴装置の使用の有無を組み合わせた歯の状態(20歯以上/10~19歯で補綴装置使用/10~19歯で補綴装置未使用/10歯未満で補綴装置使用/10歯未満で補綴装置未使用)と孤食の関連を調べた。

孤食の調査には「食事は誰とすることが多いですか」という項目を使用し、「ひとり」だけを回答した人を孤食群、「ひとり」を含む「配偶者」「子ども」「孫」「友人」「その他」のいずれかを回答した人を非孤食群とした。性別、年齢、世帯状況、教育歴、等価所得、手段的日常生活動作(IADL)、糖尿病の有無、抑うつ状態、友人との交流頻度の影響を統計解析で除外し、独居や同居が歯の状態と孤食にどのように関連するかを明らかにするため、世帯人数との関連も検討した。

独居老人で歯が悪いとより孤食の高い

この結果、自分の歯を20本以上有しているのは約55%の8万6560人。孤食群は全体の15.6%となる2万4449人で、分析の結果、20歯以上の人と比べ、10歯未満で補綴装置を使用していない人の孤食のリスクが有意に高い結果となった。また、歯の状態と孤食の関連は、独居している人で高い傾向が見 られたが、同居している人でも口腔状態が悪いと孤食をしている傾向が見られた。

歯をはじめ口腔が健康でないと、他人に笑顔を向けたり会話をしたりすることがおっくうになり、他人との食事もしなくなる。孤食のリスクを減少させるためにも、歯の喪失の予防や、義歯等を用いて健康的な口腔機能を維持することが大切だといえる。