私たちの心身を司る脳は40%がタンパク質でできており、この先も元気に生活していくには、常に体内をタンパク質で満たしておくことが大切だと前編の「医師が解説!保護者世代がタンパク質を多く必要とする本当の理由」で伝えました。タンパク質が不足すると、心身が弱ってフレイルや、脳機能が落ちて認知症を引き起こす原因になり、人間関係までうまくいかなくなることもあります。メンタルや性格にタンパク質がどう関係しているのか、心療内科医でもあるひめのともみクリニックの姫野友美院長に聞きました。【アスレシピ編集長・飯田みさ代】
【自己チェック】タンパク質が不足していないか
まずは皆さん、以下の項目で当てはまるものをチェックしてみてください。
□肉や魚を食べていない 野菜中心の食生活
□肌荒れが気になる、または肌の張りが落ちた
□思考力が低下した
□会議など、話の流れがわからなくなり、会話が成立しないことがある
□同じことを何度も話していると指摘された
□髪や爪が弱くなった
□ダイエットをしているのにやせない
□ときどきわけもなく不安になる
□クヨクヨすることが増えた
□1つのことを片付けるのに以前より時間がかかるようになった
これは、タンパク質が不足しているかどうかの自己チェック項目です。ほとんど当てはまったという方もいるでしょう…私もその1人です。
このほか太ももが細くなるなど下肢の筋力低下、免疫力が落ちて抵抗力がなくなり、風邪などの感染症に罹りやすくなるのもタンパク質不足からくるものです。これらのことを「年のせい」にしていた人もいるかもしれませんが、実は「年のせい」の始まりは、タンパク質不足からきている可能性があるのです。
アミノ酸服用で脳の機能向上、心穏やかに
姫野院長のクリニックには認知症を疑って訪れる方も多くいますが、アミノ酸を服用してもらうことでメンタルが安定して、脳の機能向上が見られたというケースも少なくないそうです。
姫野院長 認知機能は脳内ホルモンによってコントロールされているので、その原料になるタンパク質が足りないと低下してくるんです。そこでアミノ酸を処方して、細胞が入れ替わる3カ月以上服用してもらいます。すると、気力が上がってきて、早い方では3~4週間で成果が出てきます。自分の脳の機能が上がってくるので、気持ちも劇的に明るくなりますし、何よりもそれまでごちゃごちゃしていた話が整然としてくるので、すぐに効果が分かります(笑)。頭の中で物事が整理できるようになり、(幸せホルモンの)セロトニンの分泌が増えて心が穏やかになってきます。当然、周りも幸せになるので、人間関係がうまくいくようになりますよ。
「朝タンパク」で人間関係が良くなる
そんなタンパク質は朝摂取するのが効果的です。時間栄養学の観点でも、「朝タンパク」は筋力アップと睡眠の質を上げるとされています。忙しい朝は食事がおろそかになりがちですが、ゆで卵1個でも違うので、食べたいところです。
また、「朝タンパク」で人間関係が良くなるという研究結果もあります。
姫野院長 朝食のタンパク質と糖質の割合を変えた実験で、タンパク質の割合が高い人たちの方が他人を責めず、決断が早いため、人間関係が良くなるという報告があります。その中で一番大きな役割を果たしたアミノ酸はチロシンでドーパミンの原料となります。ドーパミンが出ると気分が高揚しますから、職場でも学校でもご近所でも、うまく付き合える可能性があるんですね。
朝のタンパク質摂取の度合いで人の気持ちや性格までが変わり、人間関係にまで影響を及ぼすとは、栄養を摂るタイミングもかなり重要になってきます。
脳内ホルモン3つで変わる性格や嗜好
姫野院長 そもそも脳内ホルモンは、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンの3つのバランスで成り立っています。遺伝にもよりますが、このバランスの度合いで性格や嗜好も変わるんです。
●セロトニンの多い人=いつもニコニコしていて柔らかい感じ
●ドーパミンの多い人=いつもワクワクしながら動き回っている人
●ノルアドレナリンの多い人=刺激的なことが好きだけど、いつもピリピリしていて神経質な人
姫野院長 この3つの脳内ホルモンがバランス良く満タンになっていれば、気分が落ち着いてイライラしないし、やる気やチャレンジ精神にあふれて楽しく過ごせるし、集中力も高まってきます。加齢とともに減ってくると気力が落ちて無表情になってくるんですね。いつまでも元気に過ごすには、原料となるタンパク質をしっかりとることです。
男女とも性ホルモン、更年期症状にも影響
さらにタンパク質は、男女とも更年期症状にも影響するといいます。
姫野院長 女性ホルモンのエストロゲン、男性ホルモンのテストステロンはコレステロールが原料で、コレステロールもタンパク質がないと組織に運ぶことができません。また、エストロゲン低下で起こる生理前症候群(PMS)の症状も個人差はありますが、ある程度栄養でカバーすることができます。日常生活に支障がない程度まで、更年期症状を落ち着かせることは可能と言えます。
老化に伴い仕方がないとあきらめていたこと、悩んでいたことが、もしかするとタンパク質を十分に摂ることで変わるかもしれません。ダイエットのためにむやみに食べる量を減らしたり、もはや10代のように成長しないし運動量も少ないからとタンパク質をとらずに野菜中心の食生活にしたりすると、逆に老化を促進することになります。心も体も健康に生き生きと過ごすため、保護者世代は自分に合った食事バランスと栄養摂取が必要だということを教えてもらいました。
心療内科医、医学博士。ひめのともみクリニック院長。東京医科歯科大学医学部卒業、九州大学医学部付属病院などの勤務を経て、2005年にひめのともみクリニックを開設。豊富な心療内科の経験をもとに、ストレスによる病気・症候群やオーソモレキュラー医学に基づいた栄養療法によるコメンテーターとしてテレビ、雑誌ほかメディアで活躍中。「心療内科医が教える 疲れとストレスからの回復ごはん」(大和書房)をはじめ著書多数。