アスレシピの1周年記念イベント「芝田山親方直伝ちゃんこを食べて負けない体をつくろう」が6月3日、東京・杉並区の芝田山部屋で行われ、小中学生8人を含む18人が参加した。参加者たちは迫力十分の稽古の後、ちゃんこ鍋作りを見学。力士たちを囲んでちゃんこを試食し、芝田山親方(元横綱大乃国=54)から食育、しつけのアドバイスをもらった。充実した内容の約3時間に終始、満足そうな表情だった。
国技館でも人気メニュー
目の前で見る激しい稽古に、参加者たちは一様に息を飲んだ。親方の厳しい声に、緊張が走る。そんな硬い表情が崩れたのは、力士によるちゃんこ鍋作り見学からだった。
この日の鍋は「芝田山部屋直伝豆乳ちゃんこ鍋」。昨年9月の大相撲秋場所中に両国国技館のサービスで提供したもので、「いまだあの杯数の記録は破られていないはず」(芝田山親方)という人気のメニューだ。ちゃんこ番は幕下高麗の国(26)。200キロを超える大きな体で丁寧に下準備し、1つずつ食材を説明しながら10人前の鍋作りを始めた。
「ちゃんこ」とは、お相撲さんが食べる食事全般のこと。その中の鍋料理を「ちゃんこ鍋」という。かつては、「2本脚で立っている鶏は手をつかない=負けない」という験担ぎで鶏肉を使った鍋が多かったようだが、最近は気にすることも少なくなり、この豆乳ちゃんこ鍋も豚バラ肉を使ったものだ。
スープも、誰でも簡単に作れるようにと顆粒だしを使用。肉のほか、さまざまな野菜と豆腐をたっぷり入れ、最後にバターと粗挽きコショウで味を調整する。「野菜は好きなものを入れればいいですし、豆乳の分量もお好みで量を調節してください」(高麗の国)と、冷蔵庫にある野菜、食材を使ってアレンジ可能だと、付け加えた。
一通り作り終わった後は、芝田山親方が味見とチェック。「スイーツ親方」として名を馳せているが、食全般に通じているだけあって、味には厳しい。「薄い、まだ煮えてない」と言いながらコショウを足し、芝田山流に味を調えた。
夏こそ鍋、栄養価高くヘルシー
現役時代、210キロの巨漢だった親方だが、入門時は80キロ程度。プロテイン飲料などのサプリメントを一切摂らず、稽古とちゃんこで体を大きくしたという。
「ちゃんこ鍋は栄養価が高く、カロリーの低いヘルシー食。夏になると冷たいものを食べたり飲んだりするので、胃腸が弱って疲れます。暑い時期は冷たいものはほどほどにして、熱い鍋で体を整えるのがいい」と鍋効果を説くと、参加した子どもたちから「へ~」の声。また「鍋のスープには、栄養とうま味がとけ込んでいます。余っても捨てずに、煮物など他の料理のだしとして使った方がいい」と言うと、保護者たちは大きく首を振ってうなずいていた。
力士の食事、食も会話も弾む
親方をはじめ、幕下の魁、三段目の翔傑、龍勢旺を囲んでの試食会では、ちゃんこ鍋のほか、唐揚げ、鶏肉とジャガイモの煮込み、マカロニサラダと特製だれをかけた湯豆腐が振る舞われた。普段、お父さんと剣道に励んでいる片田葵君(9)は「全部おいしい、何でもおいしい」と笑顔で箸が止まらない。
テーブルごとにさまざまな会話が交わされた。「練習後、子どもが疲れて食べられなくなるのが悩み。稽古の後、食べられないことはありませんか?」との質問に、魁が「食欲がなくても風呂に入ると腹が空いてくる。ご飯2杯とおかずで腹いっぱい食べて、昼寝です」と返答するなど、力士との食事会を満喫していた。
■胸に響く親方の教育論
会の最後には、芝田山親方のスイーツ談義のほか、食の大切さや親のしつけといった「食育・教育ミニ講座」が開かれた。
●豪華なものでなくていいから、ファストフードではなく、何か作って腹一杯食べさせて。
●食べ物を無駄にするな、大事にしなさい。
●小学校3年生になったら自分で何か食べるものを作れるように。
●賞味期限に左右されるのでなく、自分の目と鼻と舌で判断できるように。
●あいさつ、返事、礼儀など基本的なことを身につけさせるのは家庭。
●座布団は踏むな、敷居はまたげ。
●何事にも「楽しみ」があれば、やる気につながる。
●何か熱中するものを見つけなさい、見つけてあげて。
●外で汗をかかせて、体を鍛える。
子育て世代の胸に響く言葉の数々。柔道の全国大会を目指す熊木尋啓(みひろ)君(10)の母美佐子さんは「生きていくための基本的なルールは、大きくなってからでは直せない。あらためて教えられました」と神妙な表情で聞き入っていた。