あきらめなければ思いは通じる
大学院卒業を間近にした1月、急展開した。それまで寮の食事を作っていた給食会社が値上げを要求したことで、高橋利和監督(33)は寮食を見直すことにし、安原さんに白羽の矢を立てた。すでに就職先が決まっていた安原さんだったが、即快諾。やっと思いが通じた。当初は副業として関わり、今は本業として全力を注いでいる。
高橋監督も、栄養管理については安原さんに全幅の信頼を置いている。「温かいものをおいしく食べられるのが良い。以前と違い、スポーツ選手用のメニューを作ってもらえているので、ケガも減った」と目を細める。
叶えたい次の夢、選手と共に…
夢は1つ叶えて終わりではない。安原さんが叶えたい次の夢は何なのか。「来年の夏、甲子園102回大会で勝つことです」。拍子抜けするほどの堅実的な目標。自分のことでなく、選手のことを考えているからこその言葉だ。
「本当に仲が良いチームで応援したくなる子ばかり。みんなで一緒に、甲子園に行きたいねって思うんです。彼らの活躍に貢献できるよう、尽くしていきたいと思っています」。そんな熱い思いに支えられて、選手たちはたくましく、強く育っていくだろう。そしてきっと、安原さんの願いを叶えてくれるはずだ。
■今年は「丸刈り禁止令」、自分で考えさせるため
就任4年目の高橋監督は今年度「丸刈り禁止令」を出し、「野球部=丸刈り」という固定概念を取り除いた。「ノーサイン野球」に象徴されるように「自由に、自分たちが考えて」がモットー。その中で高いレベルの野球をしたいと、選手たちは県内外から集まる。寮長の山口選手は「自由だけど学生であることを考えて、寮でも行動している。練習で疲れて夜10時半には寝ています」と野球一色の生活をしているようだ。
■アスレシピのセミナー、実践編を3回受講
安原さんは昨年、東京・築地の日刊スポーツ本社で行ったアスレシピのセミナー「アスリートの食事・実践編」を受講していた。年3回の講座にフル参加。親ほどの年齢の参加者とグループワークをこなし、「お母さんたちが熱心ですごかった」と保護者の気持ちにも触れ、そこで学んだ献立作りを寮でも生かしているという。寮を訪ねた今回、表情は数カ月前よりも格段に明るくなっていた。管理栄養士としての自信を確実につけていた。
■和食店閉めて「チーム常葉大菊川」へ
調理の腕をふるう「大将」こと戸塚さんも、昨年から「チーム常葉大菊川」に加わった1人。「高橋監督に頼まれてね。まあ、子どもが好き、人が好きだから」と菊川市内で17年間続けた和食店を閉めて、寮食担当になった。「それまで、1つ500gのチキンライスを一度に30人分作ることはなかったからね。毎日が研究、工夫の連続だよ」と話しながら手際良く、食事を作る姿は見事だった。
【アスレシピ編集部・飯田みさ代】