無理な食事制限でストレス
そこから私の間違った食事法の日々が始まった。
無理な食事制限はもちろん、炭水化物を抜いたり、辛い物はカプサイシンの影響で代謝が良くなるからと過剰に食べたり、特定の食品だけで一定期間過ごしてみたりと、やり方はさまざま。確かに一時的には体重が減り達成感はあるが、長くは続かない。するとストレスもたまり、イライラしたり機嫌も悪くなる、という悪循環に陥っていた。
21歳の時に北京オリンピックに出場したが、この頃は特に体重のコントロールが難しかった。地元の大学へ進学したため実家での生活だったが、大学生になり自由も誘惑も増えたことが理由の1つだった。
JISS(国立スポーツ科学センター)のように充実した環境の中、食事も管理された上で競技が出来る選手もいるが、そうでない選手も大勢いる。私も自分で管理しなければいけない一人だったが、やはり限界があった。
北京オリンピックを機に「これではダメだ」と思い、自分の身体に対する意識も変わり、きちんとした専門家の栄養指導をしてもらうことにした。その中で一番軸となった言葉は「人の体は食べたもので出来ている」。食べたものが素直に体形に表れると言われた。当たり前のことだがそう言われてハッとした。それまでの自分を振り返ると、たくさん無駄な事をしてきてしまったなと思った。
北京五輪後に転機
そこからは、同じ肉料理でも脂質の少ないものを選んだり、料理法を揚げ物からグリルに変えたりと質を変えるようになった。それでもやはり脂質が気になる時はタンパク質を大豆などの植物性に変えた。
そしてお菓子やパンが食べたくなった時は、すぐに手に入る市販品は食べず、きちんとした専門店で買う事に決めた。無添加や原材料が良質な食品を摂りたかったという理由もあるが、そうすることで買うことが面倒くさくなり食べない事につながる、という意図もあった。
あとはパンの中でもデニッシュ系のパンは禁止した。パンの中でも小さい割にズバ抜けてカロリーが高いため、これは引退するまで守った。
そして年末年始のような運動量も減ってしまうシーズンオフの時期。お正月の定番と言えばお餅だが、これは炭水化物の過剰摂取につながり、私にとっては大敵だったので引退するまで一切食べなかった。
おいしいものはまた食べたくなる。でも味を忘れてしまえばその誘惑に勝てる、ということを味方につけた考え方だった。
これは全ての競技や選手に当てはまるわけではないが、私の中での食事ルールだった。
免疫力向上で健康に
食事の改善とともに食への意識も変わり、良質なものをバランス良く適量をいただくという事が日常的に根付いた。その事は競技をする上で免疫力を高め、ケガをしないための健康な体づくりにつながっていたと思う。
私も一児の母となった今、もし娘が同じような事で悩んだ時には、自分の経験を元にサポートしてあげたいと思う。(中川真依=北京、ロンドン五輪飛び込み代表)
(2020年3月4日、ニッカンスポーツ・コム掲載)