コンニャクは手でちぎる
力士の調理と言えば豪快なイメージだが、予想を裏切らず「握力がつくように」とコンニャクや野菜は手で豪快にちぎる。「包丁では味が出ない」という秘訣(ひけつ)の1つなのだが、調味料も計量せずにどぼどぼと鍋に落とし込む。そんな大胆さがある一方、ゴボウやニンジンはきっちりとささがきし、アクもこまめに取る。そのギャップに魅了されて、部屋伝統の「ソップ炊き」が始まった。
伊勢ノ海部屋のソップ炊きは明治時代から受け継がれる、しょうゆ味の甘辛いスープ。先に調味料で味を調えてから鶏肉を入れるのが一般的だが、ここでは違う。味つけの前に鶏肉を炊く。するとアクと一緒に黄色い油が浮き出る。鶏油(チーユ)と呼ばれる「うまみ」。これを拾う。「最後にかけると、めちゃくちゃうまい」という隠し味だ。
味つけは後から、コクの秘密は日本酒
鶏油をすくってから野菜を混ぜ、ようやく味つけが始まる。「最初に味をつけると野菜の水分で薄くなる。ソップ炊きは味が濃くないとおいしくない」。コクを求めて、料理酒ではなく日本酒を選ぶのも伊勢ノ海流。この日送られた日本盛の「健醸」を惜しみなく鍋に落とした。目分量の砂糖やみりん、しょうゆで味を調え、最後に鶏油をかけて完成だ。スキヤキのような甘辛な香りが漂い、それだけでご飯が食べられる。
「鍋を食べていない場所後は2、3日立つと恋しくなる」という大の鍋好きの勢は「ソップは最後にうどんを入れるとおいしいんです」と教えてくれた。錦木も「部屋伝統の味なので、いろんな人に食べてもらいたい」。惜しみなくレシピを明かしてくれた伝統ソップ炊き。王道ちゃんこのこの味をぜひ知ってほしい。
日本盛がオルニチン入りの新商品を寄贈
兵庫県西宮市に本社を置く酒造会社「日本盛」が伊勢ノ海部屋へ、新商品「健醸」(アルコール13度以上14度未満)を寄贈した。肝臓の働きを助けるアミノ酸の1つ「オルニチン」をしじみ30個分含有し、すっきりとしたのどごしの中に深いうまさがあるのが特長。日本酒本来の味わいはそのままに、オルニチンを手軽に摂取することができる。
日本盛はかつて、高見盛(現東関親方)をCMに起用し化粧まわしも贈るなど相撲に縁がある会社。伊勢ノ海部屋の関取2人は大の日本酒好きでもあり、日本盛と同じ関西(大阪)出身の勢は「しじみ30個分というのは、体に良さそうですね。ちゃんこもおいしくなるし、一石二鳥です」と喜んだ。
<伊勢ノ海部屋監修・家庭用「ソップ炊き」レシピ>
★材料(5人前)
鶏もも肉…500グラム
ニンジン…2本
ゴボウ…1本
タマネギ…大3個
キャベツ…1/3個
小松菜…1束
コンニャク…1丁
薄揚げ…5枚
鶏がらスープの素…適量
水…2リットル
しょうゆ…150ml
砂糖…大おたま3/4杯
みりん…100ml
★作り方
(1)ゴボウ、ニンジンはささがきし、水にさらしてアク抜き。野菜やコンニャクなどは豪快に手でちぎる。
(2)鍋を沸騰させて鶏肉投入。アクを取り、できれば鶏油(チーユ)をすくう。
(3)野菜、コンニャク、薄揚げを入れてしっかり火を通してから、スープの材料を入れる。最後に鶏油をかけて完成。日本酒を適量入れると味に深みが出る。締めはうどんがオススメ。
◆伊勢ノ海部屋のちゃんこ材料(10人前) ※味の調整はお好みです。
鶏もも肉…4キロ
キャベツ…1玉
ニラ…1束
ニンジン…4本
ゴボウ…2本
タマネギ…6個
シイタケ…1袋
油揚げ…1袋
コンニャク…2丁
しょうゆ…1リットル
砂糖…500グラム
酒…200ml
みりん…400ml
水…6リットル
◆ソップ炊き 相撲界で鶏がらスープのちゃんこ鍋のことを指す。ソップとは元々オランダ語で「スープ」を意味し、相撲界のスープ=鶏がらダシのちゃんこ鍋から、ソップ炊きと言うようになった。相撲用語では、鶏がらのような筋肉質なやせ形力士をソップと呼ぶ。対照的に太った力士のことはアンコとも言う。
◆伊勢ノ海部屋 江戸の大相撲で初めて縦番付がつくられた1757年(宝暦7)に「初代伊勢ノ海」が存在した伝統部屋で現伊勢ノ海親方(元前頭北勝鬨)は12代目。途中、合併や消滅などがあっても継承者は全て伊勢ノ海部屋出身で、数ある相撲部屋の中で唯一、直系の親方が引き継ぐ。横綱谷風、柏戸らを輩出。「四ツ車」「錦木」「頂」「有明」「猫又」など歴史あるしこ名の復活にも力を入れる。部屋付きの甲山親方(元前頭大碇)立川親方(元関脇土佐ノ海)と幕内勢、錦木ら力士11人、行司1人、床山1人が所属。
(2020年3月24日付日刊スポーツ紙面掲載)