2020年、猛暑の夏。埼玉・加須市が熱く沸き立った。地域振興のために7月20日に発売したレトルトカレーがわずか10日あまりで売り切れたのだ。その名も「アスメシカレー」。花咲徳栄高校と加須市地域雇用創造協議会などが開発した。
ネット通販や道の駅など約20店舗に並べられると、3000個の初回生産分が瞬く間に消えた。発売元などに問い合わせが続き、9月1日に販売再開されたばかり。1箱500円(税別)と値段は決して安くないが、なぜヒットにつながったのか。理由を聞いた。
超激戦のレトルトカレー業界に勝負を挑む
想定を超える出足だった。初回生産分が売り切れ、問い合わせが続く。花咲徳栄高校食育実践科の會田友紀先生は「ここまで反響があるとは思いませんでした。生徒たちも実感が徐々に出てきたようです」と笑った。
始まりは2019年8月。加須市の地域振興のために地元名産のイチジクを使ったカレーを開発してほしいと加須市地域雇用創造協議会から持ちかけられた。同協議会の坂巻健治さんは「野球だけではなくスポーツ全般が強い花咲徳栄高校さんの名前は全国区。食育実践科のお力を借りて、地域の活性化につながるものを作りたかった」と説明。過去には文部科学省事業の「スーパー食育スクール」や「つながる食育推進事業」のモデル校にも認定されるなど、食に精通する地元の名門校として白羽の矢が立った。
科せられた課題は簡単ではなかった。ご当地レトルトカレーは毎年数百種類のものが生み出されるが、9割以上が1年で姿を消す。特色を出さなければ、生き残ることはできない。加須市出身の井上岳久氏が代表を務めるカレー総合研究所とタッグを組み、助言を仰いだ。
食育実践科では運動や競技力向上に有効な栄養素を摂る「アスメシ」、学力向上に向けた「スタメシ」などの食育メニューをかねて実施。2年生の有志25人を中心にスパイスの基礎を学び、自分たちの得意分野をふまえて他の商品との違いを出すことを考え抜いた。
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