世界の第一線で戦ったトップアスリートたちは試合本番直前に、何を食べていたのか。
柔道男子60キロ級で五輪3連覇を果たした野村忠宏氏(45)、00年シドニー五輪競泳代表で「ハギトモ」の愛称で親しまれた萩原智子さん(40)、「オグシオ」ペアで08年ロンドン五輪に出場したバドミントン代表の小椋久美子さん(37)の3人が教えてくれました。
験を担いだ生麺うどん
オンラインで開かれた「みんなと食べる!大腸活テーブル」のランチ会に参加した3人。約160人の参加者を前に、まず野村氏が公開した勝負メシは「生麺うどん、おかゆ、ヨーグルト、バナナ」でした。
野村氏 「この食事は国内大会でも五輪でも同じで、試合当日の朝食です。柔道では、今は体のことを考えて前日計量ですが、我々のころは試合の当日計量でした。朝6時に計量し、9時半ごろには試合が始まる。その3時間半で食事し、移動し、ウオーミングアップをして…と忙しいんです」
五輪のような大舞台ともなると管理栄養士が食事の面倒を見てくれますが、世界選手権も含む国際大会では自分で管理することが多いため、レトルトで気軽に持って行ける生麺うどんやおかゆは必需品でした。
野村氏 「準備できるなら、おにぎりにするときもありますが、減量のためにずっと食事制限している。(計量を終えて)『よし、おなかいっぱい食べられるぞ』と思っても、なかなか口に入りづらいし、3時間半後には試合も始まるので…」
実はこのメニューの中には、野村氏の験担ぎも含まれていました。
天理大学2年生だった94年6月、目標としていた全日本学生体重別選手権で初めて優勝を果たします。
野村氏 「そのとき、たまたま食べていたのが生麺タイプのうどん。それ以来、験担ぎの1つとして試合当日の朝に食べることが決まっていました」
のり無しおにぎりとスイーツ
萩原さんが紹介した勝負メシには、思わず目を見張るものがいくつもあります。のりが無いおにぎりや、具をなくしたみそ汁…そして何と言ってもスイーツです。
萩原さん 「カステラとようかんです。海外に行くと、スーツケースの半分ちょっとはようかんを詰めていて、すごく重い。重量オーバーで結構お金がかかりました」
なぜ、それほどまでにスイーツを…と思いますよね。きちんとした理由がありました。
萩原さん 「消化が良くて、早くエネルギーに変わるという意味で摂っていました。あとは甘い物が好きなので…。それから、このおにぎりにはのりが巻いていません。のりも消化にあまり良くないので、いつもは大好きなんですが、試合の前日、当日は巻かずにそのまま食べます。おみそ汁も、ここには少しワカメが浮いていますが、試合当日はワカメも食べず(素の)みそ汁だけ飲みます」
萩原さんにとって「消化」は重要なキーワードだったようです。なお、この写真の飲み物は牛乳ではなく、飲むヨーグルトです。
萩原さんのスイーツを見た野村氏も、賛同の声を上げました。
野村氏 「私も萩原さんと一緒で、試合の合間が1時間空くとなったら、カステラを食べたりどらやきだったり、日本の和菓子を持って行ってエネルギー補給していました」
ビタミンB1が豊富な豚肉と米
小椋さんの勝負メシには、前の2人にはなかった「肉」が登場しました。そして、小鉢に入っている白いモノは…。
小椋さん 「とろろです。栄養士さんが試合1週間前から必ず小鉢にとろろを入れてくださって、食卓に出てきました。それと豚肉はビタミンB群が豊富で、お米などの炭水化物と一緒に食べるとエネルギーとして燃えてくれる、と教わってから摂っていました」
小椋さんも胃腸炎になりやすい体質だったため、乳製品を多く摂るなど「消化」には気を使っていたそうです。
そして、海外遠征の際は必ず持って行くモノがありました。
小椋さん 「必ずお米を1人5キロ…ペアを組んでいた潮田玲子ちゃんと2人で10キロ持っていきました。食事が自分の口に合わない国も多かったので、私たちの分と、それに朝から晩まで会場にいるスタッフにも、おにぎりをつくって差し入れていました。お米とみそ汁はすごく安心しますよね。落ち着きます」
3人の「勝負メシ」の評価は
これらの勝負メシについて、腸活研究所講師で管理栄養士の前川紗有美さんは「すぐにエネルギー源となる食事を効率的に摂られている印象です。野村さんは発酵食品のヨーグルトと食物繊維が豊富なバナナ。萩原さんもヨーグルトと、おみそ汁も発酵食品です。小椋さんのとろろの山芋は水溶性の食物繊維がたくさん含まれています」と、大腸活の観点から見ても高く評価しました。
その「大腸活」ですが今、アスリートと腸内細菌の関係はホットな話題になっています。
大腸には腸内フローラと呼ばれる数多くの腸内細菌が住み、免疫系や消化器、代謝や心の問題などと結びつきがあるとされています。最近の研究では、トップアスリートの腸内フローラを調べたら、一般人よりも種類が多く多様性に富んだ良い状態になっていることが分かりました。
こうした多様な腸内フローラが、激しい運動やストレスによる筋肉、内臓へのダメージから腸を守っているそうです。