講習会で知識習得、禁止でなく自主性で
寮では年に数回、主に新入生対象の「栄養講習会」を開く。冬になれば風邪予防や、寒いときの栄養摂取の仕方など。貧血や疲労骨折も、長距離ランナーにはつきものの症状だけに予防は欠かせない。講師はもちろん、京子さんが務める。「1回30~40分くらいです。練習がきついので、どうしても貧血になりやすいですから。でも、3、4年生は同じ練習をしても全然大丈夫。学年が上がると、生活のリズムが整って、対応できるようになりますね」。
駒大の食事に禁止事項はほとんどない。「例えば『炭酸飲料を飲んじゃダメ』と言っても、飲んでしまうじゃないですか。栄養をしっかり摂るときに『一緒に飲むのはやめようね』って、ゆる~い感じで言います。がんじがらめにはしていません」。それは学生らが自分自身できちんと判断できるから。上級生になるほど考える力が身についている。
そして「残さずしっかり食べてくれている子はやっぱり、体もできてくるので走れる子が多い。たまに例外はありますが、走れる子は基本、好き嫌いなく食べてくれます」。選手たちが食事の重要さを感じている様子もうかがえる。
ちなみに道環寮の食堂では、納豆やキムチなどはいつも食卓に並んでいるが、1カ月間、同じ献立が出されることはほとんどない。「差し入れも多くて、すぐに使わなきゃいけない食材が来たときは、直前でメニューが変わっちゃうこともちょくちょくあります」と笑うが、多彩なレパートリーは全て頭の中で組み立てられている。
好き嫌いなくしっかり食べる子は走れる
気になるレース前の食事について、ポイントはエネルギー不足にならないこと。「ご飯はもちろん、うどんやモチ、芋類や水餃子でもいいので、糖質中心の献立になります」。箱根駅伝の前などは2種類の炭水化物を摂っていく。
レース当日朝のポイントは「余分な栄養素をはぶく」。当日は長い距離を走るだけ。走るためのエネルギー補給を行う食事を作る。バナナやオレンジなど果物も加える。「脂っこいものはほとんど入れません。あとは、選手の好みで『うどんにお肉を入れて』『卵が欲しい』『いつも朝に食べるサケを食べたい』という子たちに合わせて作る感じです」。
栄養士の資格を取る前からずっと、こういう食事作りを心がけてきたという。
そして、正月の箱根駅伝を前に、選手たちに必ず用意するものがある。カステラとゼリー系飲料、勝守りと手紙だ。
レース前の補食として、カステラとゼリー系飲料は必須。毎年、箱根駅伝に限っていたが、今年の全日本大学駅伝でも渡したところ、優勝という結果につながった。勝守りも、数年前までは箱根駅伝に向けて渡すものだった。だが「それだと2日間ぐらいしかつけてもらえないんです。ちょっと寂しいので、全日本のところから渡すようにしました」。
カステラとゼリー系飲料は栄養士として、勝守りと手紙は寮母として、選手を見守り続ける京子さんの「親心」に違いない。【アスレシピ編集部・今村健人】
■京子さん監修本「駒大陸上部の勝負めし」
そんな京子さんが監修した本「駒大陸上部の勝負めし」(枻出版社)がこのたび出版されました。