家のようにリラックスできる場に

「勉強をして、体を大きくするにはただ食べるだけではダメだと分かったんです」。タンパク質とビタミンを一緒に摂取することで質のいい筋肉が形成される。「少しでもホームランを打てる可能性につながれば」と現在も栄養学の本を読んだり、栄養士の講演を聴いたりと、選手のための努力を惜しまない。

シーズン中、週末の3日間以外のメニューは、由可里さんと彩さんが作成。「効率よく栄養素を体に取り入れ、筋肉がしっかりつくように、味はもちろん、見た目にもおいしそうと思ってもらえるよう意識しています」と由可里さん。

調理する由可里さん。業者に発注する食材もあれば「鮮度をチェックしたい」と自ら買い物に出かけるときもある
調理する由可里さん。業者に発注する食材もあれば「鮮度をチェックしたい」と自ら買い物に出かけるときもある

朝食はバイキング形式で、時にはワッフルやクロワッサンなど、甘いパンも用意し飽きさせない。体力づくりが中心の現在は、筋肉増量を目的に肉料理中心のメニューが組まれている。

清瞬館のモットーは「家族」。関口監督は「寮っぽくしたくない。家に帰ってきた空気にしたい」と寮生活から団結を目指す。食堂は「リラックスできる雰囲気に」と掘りごたつで全員でテレビを見たりくつろげるスペースだ。

「清瞬館」自慢の食堂の掘りごたつ。選手たちはリラックスして食事をとる
「清瞬館」自慢の食堂の掘りごたつ。選手たちはリラックスして食事をとる

体調を崩した選手がいれば、由可里さんが昼におかゆやそうめんなどを用意し看病をすることも。「できるだけ家族の雰囲気で、親御さんたちの不安を少しでも軽くできれば」と話す。主将の田屋瑛人捕手(2年)は「監督の奥さんがいつもいてくださってご飯も作ってくれるので安心感がある。夏は勝って恩返ししたいです」と感謝の勝利を届けるつもりだ。

朝から夜まで、選手たちのためにフル回転の由可里さんにとって、選手の元気な姿と活躍が支え。「夏は全国の頂点に立ってもらいたい。寮の食事で体が大きくなった選手が試合で活躍するのを想像しながら、楽しく仕事していますよ」。夏、甲子園にかけるアーチへ。盛岡大付ファミリーの夢は広がる。

部屋対抗でちゃんこ鍋グランプリ

この冬、盛岡大付の寮では、熾烈(しれつ)な戦いが繰り広げられている。その名も「C1(ちゃんこナンバーワン)グランプリ」。8部屋の対抗戦で、2月から週1回1部屋ずつちゃんこ鍋を作り、そのおいしさを競う。グランプリ獲得チームには、監督から豪華景品も用意されている。

ホワイトボードに張り出された「C1グランプリ」の採点表。担当者の感想も詳細に書かれている
ホワイトボードに張り出された「C1グランプリ」の採点表。担当者の感想も詳細に書かれている

寮に置かれているパソコンで食材の栄養、効果を調べ、調理方法も研究。決められた予算内で、買い出しから行う。発案者の関口監督は「こちらからの指示で、体を作ろう、太ろうではなく、選手たちに食の大切さを考えさせたかった。いずれは1人暮らしをする子もいるでしょう。いい経験になるはずです」と話す。初めて台所に立つ選手もいて、由可里さん、前川コーチがケガや事故がないように目を行き渡らせ、感染対策も講じた上で、楽しく食育に取り組んでいる。

「C1グランプリ」で、現在トップを走る205号室の鶏ちゃんこ
「C1グランプリ」で、現在トップを走る205号室の鶏ちゃんこ

現在、トップを走る205号室の鶏ちゃんこは、だしにこだわり、野菜は火が通りやすいよう切り方も工夫。杉原大師外野手(2年)は「ご飯がたくさん食べられるよう鶏むね肉を多めに使いました。食材を大量に買ったことがなかったので、いい経験ができました。グランプリ、狙っています!」と笑顔を見せた。

食事の意識を変えるために、楽しく取り組む食トレで、選手たちは大きく成長している。【保坂淑子】

◆盛岡大付 1958年(昭33)、生活学園高校として創立された私立校。90年(平2)現校名に。キリスト教の「愛と奉仕」を建学の精神とする。野球部は80年創部。甲子園は春5度、夏10度出場。OBにソフトバンク松本裕樹。所在地は岩手県盛岡市厨川5の4の1。

(2021年2月22日付、日刊スポーツ紙面掲載)