全日本大学選手権初出場の鹿屋体大(九州地区南部)が、5日の1回戦で高知工科大(四国)に5-3で勝ち、九州の国立大としては初の全国1勝を挙げた。試合後のインタビューで「この1勝の意味」を問われた藤井雅文監督(34)は「鹿屋体大の歴史上、初の全国大会出場、初勝利。この勝利は全国でも勝てるんだということを大学が、鹿児島が、九州が思ってくれるような、そんな勇気を与えられるような1勝だったと思います」と、きっぱりと言い切った。

1回戦の高知工科大戦の1回裏、4番原俊太(4年=済々黌)の先制2ランに沸くベンチ
1回戦の高知工科大戦の1回裏、4番原俊太(4年=済々黌)の先制2ランに沸くベンチ

日本唯一の国立体育大学、スポーツ推薦なし

鹿屋体大は日本で唯一の国立体育大学。競技力などで入学できる推薦枠はなく、県内外の公立高出身者が多数在籍している。部員は79人。道具代などを捻出するため、アルバイトをしながら練習する選手が多いという。

「うちはスポーツ推薦がない国立大学です。全員が一般入試で入学しているので、勉強する力、自ら考える力はあるほうだと思います。体育に特化した授業を受けているので、一人ひとりが専門知識を持っているところが強みでもありますね」と蜂須賀友助投手(4年=長良)は誇らしげに話した。

卒業後、中学、高校の体育教員としてだけでなく、公務員、一般企業へ就職して「体育」の価値を広げる選手も多い
卒業後、中学、高校の体育教員としてだけでなく、公務員、一般企業へ就職して「体育」の価値を広げる選手も多い

疲労回復グッズを各自持参、自分の状態把握

学内には専用球場やトレーニングセンター、科学的検証を行える最先端研究施設を備えており、選手は主体性をもって取り組んでいる。継投で初戦突破に貢献した森田希夢(2年=済々黌)、小川慶士(2年=広島国泰寺)の両投手は遠征グッズを持参していた。

「カッピングという、血流をよくするためのコンディショニンググッズを持ってきました。使い方を学んだ上で、練習の後や移動中のバスなどで使っています。疲労を回復させるために普段の練習から使っています」(森田)。「僕はストレッチマットを持ってきました。ホテルの床に敷いて、空いた時間にストレッチをしています」(小川)。

全体練習の最初の20分間は各自、好きなメニューでウォーミングアップする
全体練習の最初の20分間は各自、好きなメニューでウォーミングアップする

ウォーミングアップは、チューブトレーニング、ジョグ、ストレッチ…と個人個人バラバラ。普段から自分の身体能力を数値化しているため、好不調の波も把握している。最近では当たり前になってきている「主体性ある練習」でチームは強くなってきた。

地元食材の夕食を週3日、食意識も高まる

さらに、今年3月から取り組んでいる食事改革も初出場初勝利の一手となった。鹿屋体大の隣接地で、地元食材を生かした食育発信基地としてスタートした「かごしょくのおうちごはん」と提携。管理栄養士が作る食トレメニューを夕食に取り入れている。

目的は「全国大会で勝つための体づくり」。1人暮らしで自炊をしている選手が大半のため、授業で学んでいるはずのスポーツ栄養学を実践できていないことが多かったからだ。

初出場の全日本で、九州に勇気を与える勝利を飾った鹿屋体大
初出場の全日本で、九州に勇気を与える勝利を飾った鹿屋体大

そこで、管理栄養士の田畑綾美さん(KAGO食スポーツ代表)らがチームを組んで提供する一汁三菜のメニューを週3回、練習後に食べるようになった。栄養価の高いアスリートフードを食べることで、不足している栄養素を知ったり、自炊の知識を深めたりして「食」に関しても主体性をもって取り組むようになった。

森田は「自炊だと米だけに頼りがちでしたが、栄養バランスのいい食事がしっかりとれて助かっています。トマトを多く食べるようになりました」。小川も「『試合や大会の前だけきちんと食べよう』と思っていた食の意識が、日常的になっていった。メニューがどれもおいしいけど、特にチキンカレーの肉が柔らかくて絶品です」と笑顔で語った。

高知工科大戦に登板した小川(左)と森田
高知工科大戦に登板した小川(左)と森田

地区予選の初戦で先制タイムリーを放った植田壮紀内野手(4年=東筑)は「自分は自炊に積極的ではなく、スーパーで総菜などを買って済ませることもあるのですが、栄養が考えられたメニューを取ることで体づくりへの意識が高まります。農場直送の食材もあり、鹿屋は肉も野菜も何でも美味しい良いところです」と、地元愛も口にした。選手の中には「全部を頼りきるのではなく、週3回という頻度がちょうどいい」「自分でも作ってみたいという気持ちになる」と話す者もおり、自立した生活の予行練習にもなっているようだ。

主体的なトレーニングと食の力で初戦を突破した鹿屋体大。2回戦は7日、近大と対戦する。【樫本ゆき】

◆鹿屋体大野球部 創部1984年。九州地区大学野球連盟南部地区代表。全国唯一の国立体育大学。チームの理念は「野球を通じての人間形成、社会で活躍する人間に成長すること」。ラプソードやトラックマンなどの精密機器を使った科学的な練習を実践し、年1回「大隅地区野球を語る会」として地元の未就学児、小中学生へ野球教室・普及活動を行っている。前田明部長、藤井雅文監督、鈴木智晴コーチ、知念一輝コーチ。部員数79人。鹿児島県鹿屋市白水町1番地。