Q5、噛み合わせの良し悪しに関係なく、噛む力をつけるためにはどうしたらいいのか
厚生労働省は「一口に30回以上噛んで食事」を推奨しています。2009年に公表された「歯科保健と食育の在り方に関する検討会報告書」の「歯・口の健康と食育~噛ミング30(カミングサンマル)を目指して~」という論文の中で具体的に述べられているものです。国も咀嚼の健康に対する有効性を認めており、私たちも日常生活の中で意識したいものです。
■歯ごたえあるものを「意識して」咀嚼
噛む力をつけるためには小魚やゴボウなど、歯応えのあるものを「意識的に」噛んで咀嚼することが大切です。ただ漫然と咀嚼していると、噛み癖がある場合は右で噛んだり、左で噛んだり、アンバランスな噛み合わせになることが懸念されます。バランスの悪い噛み合わせは姿勢のゆがみを生み、成長・発育に悪影響を及ぼす可能性もあります。
■足は床につける、ゆがんだ姿勢で表情筋のゆがみも
食事をする姿勢も重要です。椅子に座っている時に足がブラブラしていると踏ん張りがきかず、しっかり噛むことができないので、足が床に着いていることが大切です。
ゆがんだ姿勢のまま噛み続けると、噛む筋肉(咬筋など)や顔の表情筋のバランスが乱れ、将来的に顔貌のゆがみや歯並びの悪さにつながる可能性も懸念されます。しっかり噛むことで頭蓋骨全体がバランスよく成長することが促され、表情の豊かさや美しい笑顔にもつながります。
Q6、しっかり咀嚼するための工夫やポイント
もちろん、食事する本人の意識次第でもありますが、「食べ方の工夫」をすることで噛む回数を増やすことができます。例えば、一口の量は少なめにして食べ物の形がなくなるまで意識して噛む、飲み込んでから次の食べ物を口に入れるなど、時間をかけて食べることが大切です。さらにテレビを見ながら、スマホを操作しながらといった「ながら食べ」をしないことも心掛けましょう。
また、食事を提供する側にとって、調理に一工夫を加えることによって「しっかり噛める」こともできます。しっかり噛むことにより、食事への満足度アップにもつながります。野菜ソムリエの資格も持つ私として、皆さんにいくつかアドバイスしましょう。
■調理する上でのアドバイス
例えば、具材を大きく切る、硬く茹でる、歯応えのある食材(根菜、海藻、キノコ類など)を使う、軟らかい料理に噛み応えのある食材を混ぜるなど食材の組み合わせをアレンジする、という少し工夫するだけで、自然と咀嚼する回数を増やすことができます。
加熱調理で軟らかくなる野菜も、サラダなど生で食べると歯応えを維持できます。食物繊維の豊富なゴボウなどの野菜はしっかり噛めることに加え、便通もスムーズにしますから、腸の中をキレイにすることもできて一石二鳥です。
1972年生まれ、兵庫県出身。歯科医師・歯学博士、野菜ソムリエ。大阪歯科大学卒。同大学大学院、大阪大学微生物病研究所等を経て、2019年より医療法人恵泉会堺平成病院・歯科科長。京都文化医療専門学校・非常勤講師を歴任。TV出演「所さんの目がテン!」(日本テレビ)等のほか、著書に「歯磨き健康法」(アスキー・メディアワークス2008年)、「ミュータンス・ミュータント」(幻冬舎ルネッサンス新社2017年・文庫改訂版2021年)、「頼れる歯医者さんの長生き歯磨き」(わかさ出版2019年)がある。
<参考資料>
・全国農業協同組合中央会(JA全中):朝にゆっくりかんで食べる食事と学力・スポーツに関する実態調査,2011.
・Kibayashi M: The relationships among child’s ability of mastication, dietary behaviour and physical fitness. INTERNATIONAL JOURNAL OF DENTAL HYGIENE, 9(2)127-131, 2011.
・株式会社DRIPS:現役アスリートの歯科矯正事情調査.2022年10月1日~3日,インターネット調査