<キッチンは実験室(57・下):はちみつの科学>
「 はちみつの科学(上)」では、はちみつはどんなものか、なぜ美容や健康に良いと言われているのかを伝えました。ここでは、はちみつのパワーや活用例を挙げながら、その秘密にさらに一歩迫ります。
紅茶に入れると黒くなる原因
紅茶にはちみつを入れた瞬間、紅茶が少し黒くなったという経験はありませんか。実は、はちみつに含まれる鉄分が、紅茶の成分のタンニンと結びつき、黒い沈殿を生じるのです。
「はちみつになぜ鉄分?」と思われる方もいるかもしれませんが、原材料の花の蜜に鉄が含まれているからです。他にもビタミンB1、B2、B6、パントテン酸などのビタミン類が含まれているため、古くから「不老長寿の食べ物」として薬膳で使われていました。
どら焼きの皮やカステラに使われるのは
はちみつの成分である果糖は保水性が高く、生地がしっとりと仕上がるため、カステラ生地などにはちみつが配合されることもよくあります。ブドウ糖や果糖は、白砂糖に含まれるショ糖と違い、還元糖(還元基をもつ)のため、タンパク質のアミノ酸と一緒に焼くと焦げ色がつきやすくなります。それがどら焼きの皮に使われている理由です。
保水性が高いということは、肉を柔らかくする効果もあるので、レシピにもよく使われます。煮魚や照り焼きなどでも使われ、はちみつに含まれる有機酸で臭み(アミン)をマスキングして生臭さを消したり、照りや焦げをつけて色や香りと風味を増すのです。古米を炊く際に、スプーン1杯のはちみつを炊飯器に入れて水の保水性を高め、ふっくらと輝きのあるお米を炊くという応用もあります。
純粋はちみつ、はちみつシロップの違い
「はちみつ」とひとくくりに言っても、実はいろんな種類があります。買い物する際に、商品を手に取ったら成分表示を見てみてください。
●純粋はちみつ=天然成分100%。本来のはちみつの風味を楽しめ、殺菌作用や栄養価が高い。
●加糖はちみつ=はちみつに水飴、砂糖などを加えて加工したもの。手軽な値段で甘い香りや風味を楽しめる。はちみつシロップなどとも呼ばれている。
冬に白く固まる理由と元に戻す方法
そんなはちみつが、冬に白く固まってしまったことはありませんか。カビ? 品質劣化? と驚いたことがあるかもしれません。
しかし、安心してください。これは、はちみつの成分のブドウ糖が低い温度(外気温が15℃以下)によって結晶化したことが理由です。固まっても味や品質に問題はありません。耐熱容器であれば電子レンジで軽く温めたり、60℃くらいの温度で湯せんすれば、元のようにとろっとしたはちみつとして使うことができます。
あえて溶かさなくても、紅茶や料理など、温かいものに入れて自然に溶かしてもいいでしょうし、パンに塗って結晶をそのまま楽しんでもいいでしょう。シリアルにまぶしたり、柔らかい飴としてそのまま舐めたりするのもおすすめです。
なお、結晶化したはちみつは、溶かした後も再結晶しやすいので早めに使いましょう。
結晶化しやすいはちみつがある
結晶化しやすいかどうかは、花の種類によって変わります。結晶化しやすいのは「ブドウ糖」の割合が大きいもので、ナタネはちみつなど。反対に果糖の比率が高いアカシアはちみつは比較的、結晶化しにくいと言われています。
低い温度以外でも、はちみつの中に気泡が入ったり、容器を振って振動が伝わったりすることで結晶化が進みやすくなります。保存場所も、直射日光が当たる場所や温度変化が大きいエアコンやストーブの近く、振動が響く電子レンジや冷蔵庫の近くなどは避けた方が良いでしょう。
また純粋はちみつでなく、加糖はちみつであれば、結晶化しづらくなります。
ローヤルゼリー?プロポリス?
「ローヤルゼリー」や「プロポリス」といった言葉は聞いたことがあるでしょう。「蜂やはちみつに関連しているようで、体に良さそうだけど、よく分からない…」という方のために、簡単に説明していきます。
●ローヤルゼリー
はちみつの一種で女王バチ候補の幼虫に与える特別な食事。羽化して6日~12日の若い働きバチが、花粉やはちみつを食べて消化吸収し、体内を経由して分泌した物質。働きバチの頭部にある下咽頭腺と大あご腺から分泌される白いクリーム状のものを、働きバチが口移しで女王バチ候補の幼虫に食べさせる。女王バチは生涯を通じてローヤルゼリーしか口にしない。
●プロポリス
ミツバチが集めたハーブや樹液の新芽と酵素を組み合わせて作った固形の物質。巣の外壁や隙間に塗りつけて、ウイルスやバクテリアの侵入を防ぐために使われる。本来、ハチにとっては食べ物ではないが、成分に抗酸化作用の高いものが入っており、近年、機能性食品や健康食品に活用されている。
●マヌカハニー
マヌカという木の花の蜜の成分からできたはちみつ。マヌカの花の蜜には抗菌性を含む成分(メチルグリオキサール)があり、加熱にも強く、体内での菌に対して抗菌作用の働きを示すことが明らかになっている。