<キッチンは実験室(65):ハンバーグの科学>

皆さん、こんにちは。キッチンの科学プロジェクト(KKP)のみせすです。今回は、子どもたちが大好きな「ハンバーグ」に注目し、料理初心者の子どもでも失敗せずに作る方法を教えます。

国民食と呼ばれるハンバーグは、レシピサイトで検索するとなんと3万件以上もあるとか。味も材料も様々ですが、中が生焼けになったり、ボソボソと崩れてしまったり、成形のときにベタベタしたり…と上手に作るためのポイントがあるのも事実です。「ハンバーグの科学」を抑えれば、誰でもおいしく作れますよ。

材料は肉のうま味や食感を引き出すものを

まずは材料から見ていきましょう。極端な話、ハンバーグはひき肉と塩があれば作れます。ただ、それだけでは硬い食感の肉の塊になってしまいます。ふっくらと柔らかくジューシーなハンバーグにするには、卵、パン粉、牛乳などの副材料が必要です。

何をどれだけ入れるかは様々ですが、副材料の効果や働きを頭に入れておくと、お好みのハンバーグに近づくかもしれません。

<ハンバーグに入れる材料の働き>

=肉に含まれるタンパク質の溶け出し(ミオシンの塩溶性)を促進させ、粘りを出す(肉に対して0.8%)。それによって保水性が高まり、割れにくく肉汁を包み込むジューシーなハンバーグになる。
牛乳=パン粉を湿らせるため。肉の臭みを消す働きがある(※1)。
パン粉=肉汁を吸収し、うま味を逃さないため、ふっくらシュージーになる(肉に対し10%)。
ナツメグ=スパイスとして肉の臭みを消す効果がある。
タマネギ=肉の臭み消し。あめ色タマネギにするとより甘さで肉のうま味を高める(※2)(肉に対し30%)。
=熱で固まる性質(熱凝固性)があるのでハンバーグがまとまる。保水性があり、柔らかい食感に(※3)。

お好みで次のものを入れても良いでしょう。

=パン粉の代わりにするとタンパク質がアップ。ふっくらジューシーな食感に。
レンコン、ゴボウ=シャキシャキとした歯応えが楽しめる食感に。
豆腐、おから=肉の代わりのタンパク質源に。カロリーを抑えるとともに柔らかい食感に(入れすぎるとつなぎにくくなるので注意)。

塩の量が0.8%の理由

ハンバーグに使われる塩の量の目安は、肉100gに対して0.8gと0.8~1%。これは、体内の塩分の濃度とほぼ同じです。ちょうど良い塩加減というのは、私たちの体の仕組みによるというのが面白いですね。

ちなみに、レシピに書かれている塩の分量がどれくらいか、以下を頭に入れておくと便利です。

小さじ1=6g
ひとつまみ=親指、人差し指、中指の3本でつまんだもので、約1g(小さじ1/6)
少々=親指と人差し指の指2本でつまんだものでだいたい0.6g(小さじ1/8)

タマネギは炒めてから?生のまま?

ハンバーグにタマネギを入れる場合、みじん切りした後、一度炒めてあめ色タマネギ(※4)にするか、生のままか、どのようにして入れていますか。

タマネギを炒めると甘味が出て余計な水分を飛ばせるため、あめ色タマネギを入れると、ハンバーグのうま味が増すと言われています。ただし、炒めてすぐに加えるのではなく、しっかり冷ましてからにしましょう。ひき肉が傷みやすくなり、肉の脂が溶けて成形しにくくなるからです。

生のまま加える場合、シャキシャキした食感を楽しむことができます。

合いびき肉が使われるのはなぜ?

ハンバーグのメインとなる材料のひき肉は、一般的に豚と牛の「合いびき肉」が使われます。中学校の家庭科には「牛と豚の持つ風味と融点の違いを生かすため」と書かれていますが、どういうことなのか具体的に説明しましょう。

牛肉100%のハンバーガーを食べたことはありますか? 「これぞ肉!」という肉肉しい味と香りが広がりますが、少し硬めでボソボソした食感があったと思います。

一方で豚肉100%にしたらどうでしょう。柔らかくジューシーですよね。その理由は、豚肉の脂の溶ける温度「融点」にあるのです。

豚肉の脂(豚脂)の溶ける温度は30~40℃。私たち人間の体温はそれを上回る約36℃なので、ハンバーグを食べたときに口の中で豚の脂がじゅわっと溶け出します。

一方の牛の脂(牛脂)の溶ける温度は40~50℃。牛肉が冷めるとあまりおいしくないのは牛脂の融点の高さからで、ネトネトした食感になってしまうのです。

これらの理由からハンバーグのタネの肉は、牛肉の「肉肉しいうま味と風味」と、豚肉の「脂がのり、融点が低いため口の中でジューシーに感じる」というそれぞれ良い点を合わせた「合いびき肉」を使うことが多いのです。

一般的には「牛ひき肉:豚ひき肉=7:3もしくは6:4」の割合が良いと言われています。お弁当など冷めたハンバーグにするときは豚肉の分量が多いものがおすすめです。

ひき具合によっても食感が変わる

ひき肉のひき具合によっても食感が変わってきます。肉の食感や歯ごたえを残したいときは粗びき(硬い肉だと口当たりが悪く、口の中に残るので注意)に、口当たりが滑らかでふんわりとした食感にしたいときは細びきにすると良いでしょう。

このようなことを頭に入れながら分量を決めたり、材料を加えたりすると、自分の好みの風味や硬さを作ることができますね。ヘルシー志向が強い現在では鶏ひき肉を使うこともあります。

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