<キッチンは実験室(70):かつお節の科学>
キッチンの科学プロジェクト(KKP)のみせすです。今回は出汁(だし)の1つ、かつお節を深掘りしていきます。
イノシン酸のうま味
以前のコラム「うま味の科学」でお伝えしたように、昆布だしのうま味成分はグルタミン酸、シイタケはグアニル酸、前回紹介した貝はコハク酸とある中で、かつお節は「イノシン酸」です。核酸系に分類される動物性のうま味で、昆布やトマト、タマネギなどと一緒に合わせることで、うま味が9倍以上アップするという相乗効果が期待されます。
かつお節には2種類ある?
ひとえにかつお節といっても「荒節」と「枯節」の2種類に分類できます。一般的にスーパーなどで売られている「花かつお」は「荒節」を削ったもので、枯節は、荒節にカビをつけて熟成させたものです。
「カビ」と聞くと、湿ったお風呂場などに増殖する黒カビや古い食品に生える有毒カビを思い起こすかもしれませんが、かつお節のカビは良性で「優良カビ」とも呼ばれます。麹カビの一種のユーロティウム・ハーバリウム(Eurotium herbariorum、和名:カワキコウジカビ、またはかつお節コウジカビ)で乾燥した場所を好むため、かつお節の水分を吸収して蒸発するのに役立ちます。同じ種類の麹カビには、みそ、しょうゆの発酵熟成に使われるアスペルギルスオリゼー(和名:黄麹菌)などもあります。
違いはカビの有無
かつお節には、このカビの有無で違いがあるのです。
●荒節 →削ると「花かつお」(かつお削り節)
●枯節 (削ると「枯節削り」
荒節、本枯節の違い
カビの話に行く前に、どのようにしてかつお節ができるのか、説明しましょう。
まずアジ、イワシは丸干しの乾物が存在するのに、カツオそのものが干された製品はないですよね(塩漬けのカツオはありますが)。一般的にカツオやマグロのような大型の魚は身が厚いので、そのまま保存することができないのです。背びれから割き、内蔵と背骨を取り除き、海水で保存したものをさらに乾燥させています。
■かつお節ができるまで
1、水揚げ・生切り
頭を落とし、内蔵を取り除き、3枚におろした後1尾を4本(背節、腹節各2本ずつ)が作られる
2、籠立て・煮熟・骨抜き
煮るために籠に入れられたあと、75~98℃のお湯で60~90分間煮る。沸騰させると泡で煮崩れしまうため、長時間じっくりと煮熟させてタンパク質を熱凝固させ、肉がしまって生臭みのない上質なかつお節を作る。煮た後は、身崩れを防ぐため、骨や皮、鱗、皮下脂肪、汚れなどを取り除く。この段階では水分は約70%。
3、焙乾(ばいかん)・修繕
いぶしと熱風をもって乾燥させる工程。これにより燻製(くんせい)による酸化防止や風味を与え、うま味を引き出し、水分を抜き、堅くて保存の効く節に仕上げていく。さまざまな手法があり、焦げないギリギリの高温で表面をいぶし乾かし、かつお節のうま味を凝縮させて美しく作る製法も存在する。骨抜きなどで身が欠けた部分は生肉を混ぜて修繕。燻製した翌日は寝かして休ませ、翌日、またいぶす作業を繰り返す。焙乾と寝かせを繰り返して、水分量を25%程度まで下げる。
ここまでの工程で「荒節」が出来上がります。この後の工程で、「枯節」を作っていきます。
4、削り・カビつけ・天日干し
形を整え、表面についた燻製成分のタールを削り(裸節)、カビをつきやすいようにする。その後、カビ菌をつけて室で貯蔵し、成長させ、天日干しで乾燥させる。この作業を3~6回繰り返す。水分量は15%以下になり、4回以上カビつけされたものが「本枯節」と呼ばれる。カビつけによって表面の脂肪分を分解し、済んだ透明なだしになる効果も期待される。
このように、かつお節を作るまでには多くの手間と長い期間がかかります。特に「本枯れ節」は完成までに3カ月から半年、中には2年以上もかかる高級かつお節です。その代わり、香りとだしの濃さや深さは格別だと言われています。
まとめると、最後にカビ付けをすることで、次のような効果があります。
■カビつけの効果
1、水分が抜けて腐りにくくなる
2、うま味が増す
カビが表面から菌糸を伸ばしタンパク質の中で増殖、タンパク質やアミノ酸を分解する中でタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)を出し、うま味を発生させる
3、香りを高める
脂肪分解酵素によって表面の脂肪が分解され、かつお節特有の香りが生成される。また脂肪分は酸化されると雑味やえぐ味の原因になるが、酸化される脂を減らし、うま味の熟成が進む。