<高橋大輔の再出発(1)>
フィギュアスケート高橋大輔(33)の新しい挑戦が始まりました。10年バンクーバーオリンピック(五輪)では、アジアの男子シングル選手として初の銅メダル獲得。五輪3大会に出場した元世界王者は19年12月、全日本選手権でシングルとしての最後の演技を終えました。今年からは18年平昌五輪代表の村元哉中(かな、26)と組み、アイスダンスへ転向します。
3回シリーズで「高橋大輔の再出発」をお届けします。
一緒にここまで来られてよかった
目に入ったのは、総立ちの観衆だった。高橋は口でしていた呼吸を整え、その光景を目に焼き付けた。
「ボロボロでした。最後にふがいない演技をして申し訳ない。拍手を見て『シングルは引退なんだな』っていう、実感が湧きました。このスポーツ、シングルに出会えて、幸せ者だと思いました」
19年12月22日、全日本選手権男子フリー。シングル最後の演技、その舞台は14年前、初優勝を果たした東京・国立代々木競技場だった。
20日のショートプログラム(SP)は14位。フリーも3回転フリップの転倒など全盛期の完成度に遠く及ばず、総合12位となった。それでも4分間の滑りで力を出し尽くすと、手拍子をし、声を合わせて叫ぶファンの声が聞こえてきた。
「大ちゃん! 大ちゃん!」
リンクサイドに見えた顔は、20年前から変わらなかった。右隣に座って得点発表を待つコーチの長光歌子へ、内緒で用意していた花束を差し出した。
「長い間、ありがとうございました」
普段は照れて伝えることができない、精いっぱいの感謝の思いだった。花束を受け取った長光は何度も頭を下げ、高橋と過ごした時間を思い返していた。
「最後までずっと私の横にいてくれた感謝と『最後、もうちょっと(いい演技が)できただろう』っていう残念さと…。花束は本当にビックリしました。でも、すごくうれしかった。『別のコーチについたら、もっと良くなっていたのかな』と考えたこともありました。でも、いいところも、悪いところも、一緒にここまで来られたことが良かったです」
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