体から曲が聞こえてくる

出会いは夏の終わりだった。99年8月末、長光は仙台のリンクで行われていた恒例の合同合宿に参加した。指導の中心は06年トリノ五輪金メダリストの荒川静香や本田武史らを育てた、名伯楽の長久保裕。その教えに学ぼうと、全国から指導者が選手を連れて訪れていた。

10日間ほど続いた合宿中のある日、長光に突然の依頼が来た。振り付けを担当するコーチが急用で不在となり「歌ちゃん、頼むよ」と後を託された。その選手が岡山・倉敷市からやって来た、中学2年生の高橋だった。

名曲「ワルソー・コンチェルト」の振り付けは、最初の部分だけが仕上がっていた。長光は個人的に大好きなピアノ曲をかけながら「悪いけれど、中2の男の子には無理でしょう」と内心、思っていた。そんな杞憂(きゆう)は、一瞬にして覆された。

「この感性はすごい。絶対に、世界に出て行くわ」

コーチの了承を得て、振り付けを一から作りなおした。編曲も行い、まだ13歳だった少年に落とし込んだ。その驚きは二重、三重に膨れあがった。

「体から曲が聞こえてくるような感じがしたんです。普通、振り付けを10しても1か2にしかならないけれど、彼は10倍、20倍にしてくれる。一番照れくさい時期に、よく踊っていた。男の子では初めての感覚でした」

当時48歳の長光は、中2の才能にほれ込んだ。1週間の指導を終えると、高橋から「ショートプログラム(の振り付け)もない」と伝えられた。

「それは困るやん!」

9月末のシーズン初戦が、1カ月後に迫っていた。

「倉敷に帰ったらね、今週末、大阪に出ていらっしゃい。ショートプログラムの振り付けもしてあげる」

それからというもの大阪・高槻市を拠点とする長光は、週末に高橋を指導するようになった。二人三脚で歩む日々の始まりだった。(敬称略、つづく)【松本航】

(2020年1月20日、ニッカンスポーツ・コム掲載)