以前書いた2つのコラム(※1、2)で、「女性アスリートの三主徴(Female Athlete Traid:FAT)」を説明し、「利用できるエネルギーの不足にならないよう注意しましょう」というお話をしました。
※1=陥りやすい女性アスリートの三主徴の1つ「利用できるエネルギーの不足」とは
※2=パフォーマンス低下や故障を防ぐ、「利用できるエネルギーの不足」にならないために
FATによって、健康で高い競技力を保つことが難しくなるという内容をお伝えしましたが、最近になって、男性アスリートも利用できるエネルギーの不足が続くと、女性アスリートと同じようになることが分かってきたのです(参考文献:The Female and Male Athlete Triad Coalition https://www.femaleandmaleathletetriad.org
)。
今回は「男性アスリートの三主徴(Male Athlete Traid)」についてお話しします。
女性アスリートの三主徴との違い
女性アスリートの三主徴(FAT)は、「利用できるエネルギーの不足」「視床下部性無月経」「骨粗しょう症」を指します。利用できるエネルギー不足が続くことによって、視床下部性無月経、骨粗しょう症が引き起こされると言われています。
男性アスリートも同様に利用できるエネルギー不足が続けば、「性機能低下」「骨密度低下」を引き起こすと言われており、「利用できるエネルギーの不足」「性機能低下症」「骨密度低下」を男性アスリートの三主徴というそうです(図1)。
FATは、2014年に国際オリンピック委員会 (IOC) が提示した「スポーツにおける相対的エネルギー不足 (RED-S) 」の概念の一部(図2 RED-Sの▲部分)で、相対的エネルギー不足により様々な健康問題を引き起こすとしています。「相対的エネルギー不足」というのは「利用できるエネルギーの不足」と同じ意味、つまり、男性アスリートの三主徴はFATと同じことです。
言い換えると、利用できるエネルギーの不足が続けば、ゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)の分泌が低下して、精巣(睾丸)の発達やテストステロン(男性ホルモン)の分泌に影響が出るため、第2次性徴が遅れたり、思ったほど身長が伸びなかったりします。骨密度も女性同様、18~20歳までにピークを迎えますが、骨密度が低下してピークまで達しない可能性もあります。利用できるエネルギー不足によって起こる問題は女性特有のものではなく、男性にも起こるというものなのです。
男子は女子より多くのエネルギーが必要
運動せずに1日生活するためのエネルギーは年齢、性別、体格など様々な条件によって異なりますが、一般的に男子の方が体格が良く、筋肉量が多いことから基礎代謝が高いと言われています。
基礎代謝が高ければ、同じ体重でも生活や運動で消費するエネルギーが多くなることを考えると、食事の量によっては男性の方がエネルギー不足になりやすいと言えるでしょう。
■1日の推定エネルギー消費量
●例1=中学生男女の基礎代謝の違い
中学生(14歳)、体重50㎏、学校に行くだけ(普通労作)
基礎代謝(基礎代謝基準値×体重)×身体活動レベル
男子=(基礎代謝=31.0×50=1550)×1.70=2635kcal
女子=(基礎代謝=29.6×50=1480)×1.70=2516kcal
このように、男子アスリートはエネルギー消費量が多いため、女子アスリートと同じ量しか食べていなれば、必然的にエネルギー不足に陥る可能性があります。
筋肉を増やせば、さらにエネルギーが必要
また、同じ男子でも体脂肪率が異なると、筋肉量の違いから基礎代謝が高くなり、エネルギー消費量が多くなることが考えられます。