エネルギーを作り出す三大栄養素の1つ「タンパク質」は、筋肉の材料になるとして、アスリートにとって大切な栄養素です。昨今、コロナ太り解消から「筋トレブーム」が起こり、一般の人にも「タンパク質を意識して摂ろう」という情報が広まり、市場には「高タンパク質」の食品が多く見受けられるようになりました。
そんな中、タンパク質の働きを十分理解せず、ただ食べればいいと思っている人もいます。その結果、思ったほど効果を感じていない人も多くいるようです。タンパク質は一体、どういったものなのか、体の中での働きをお話しします。
体内で色々な役割をもつタンパク質
食べ物に含まれるタンパク質は、消化・吸収されるとアミノ酸になります。アミノ酸はエネルギー源として使われるはか、体タンパク質(筋肉・内臓・血液・毛髪・爪・骨のコラーゲンなど)や酵素、ホルモンなどを合成する材料になります。
不足すると爪が割れやすくなったり、髪の毛が薄くなったりするのは、それらがタンパク質からできているからなのです。また、細菌やウイルスから体を守る免疫体の主成分でもあります。
エネルギー不足はアミノ酸の分解を増やす
食事で糖質や脂質を十分に摂れていないと、それらから生産されるエネルギーが少なくなり、不足します。不足したエネルギーを補うために、タンパク質がエネルギー源として使われてしまいます。
体タンパク質を合成して筋肉を増加させたい場合、まずは糖質、脂質から十分にエネルギーを摂取する必要があると言えます。また、糖質が吸収される時に分泌されるインスリンが、タンパク質から体タンパク質の合成を促進することからも、タンパク質は糖質とともに摂取すると良いようです。
「筋肉が付きにくい」「筋トレしても思うような効果が得られない」というアスリートの声をよく耳にしますが、食事内容を聞くと、糖質や脂質の摂取量が明らかに足りないことがほとんどです。
大量に摂れば良いわけではない限界値
タンパク質を多く摂れば、体タンパク質の合成が進み、筋肉が増えると思われがちですが、そうではありません。一定量以上摂って筋肉トレーニングをすると、体タンパク質の合成が高まりますが、限界値があり、それ以上多く摂っても合成が高まらないどころか、逆にエネルギー源としての消費が増えることがわかっています。
色々な研究がありますが、アスリートの1日の摂取量の上限は、体重1㎏あたり2.0gとしていることが多いようです。これは、先ほどお話しした通り、エネルギー摂取量が十分であることを前提としているので、ただ単にタンパク質を計算して摂ればいいということではありません。1日のエネルギー必要量から考えるタンパク質の目安量は、エネルギー比率が15%程度とされています。
(例)体重50㎏の女子 陸上選手1日のエネルギー必要量が2500kcalの場合
2500kcal×{15÷100(%)}÷4(タンパク質1g=4kcalのため)=93.75g
タンパク質の上限値50㎏×2.0g=100g
高タンパク食のデメリット
タンパク質を摂りすぎると、尿中のカルシウム排泄量が増え、結石や骨密度低下のリスクが上がることや、肝臓、腎臓の負担が増大するなどが懸念されていますが、アスリートではあまり見られないようです。しかし、肉ばかり食べて主食を食べないといったように、タンパク質の摂りすぎで糖質の必要量が足りなくなると、筋肉や肝臓のグリコーゲン貯蔵量の不足につながります。
体タンパク質の合成にも、エネルギー源としても使われなかった過剰なタンパク質は、そのまま体に蓄えることができません。脂質に変換する代謝経路によって脂質として蓄えられるため、体脂肪量が増えることになります。
以上のことから、まずは糖質、脂質から必要なエネルギー量を確保し、タンパク質は不足でも過剰でもない適量を摂り、しっかり筋肉トレーニングを行うことが重要だということが分かったと思います。
3食均等に摂取して効率よく筋合成
筋肉を作る、いわゆる筋タンパク質合成は、食事から摂取するタンパク質の量に左右されます。安静時におけるタンパク質摂取で筋タンパク質合成速度が最大値となるのは、体重1㎏あたり平均して約 0.24 g の良質なタンパク質であると報告されています(参考文献:筋肉量の増加に向けた効果的な レジスタンス運動とタンパク質摂取,藤田 聡,Ph.D., CSCS, 立命館大学スポーツ健康科学部 教授)。
高齢者では筋タンパク質の合成を最大に高めるために、体重1㎏あたり約 0.4 gのタンパク質が必要であり、加齢に伴い、筋合成を最大限に高めるために必要なタンパク質の必要量が増加することが示唆されています。ということは、毎食タンパク質をしっかり摂取しないと、筋タンパク質合成速度が最大値まで上がらず、筋合成がうまくいかない可能性も出てきます。
(例)体重50㎏の女子 陸上選手の場合
筋タンパク質合成速度が最大値となるタンパク質必要量 50㎏×0.24=12g
朝食のタンパク質は不足ぎみ
筋タンパク質合成速度を最大値まで上げるためのタンパク質摂取量は分かったと思いますが、何をどのくらい食べたらいいのでしょうか。
ご飯100gには4.0g、食パン8枚切りのうちの1枚には4.2gのタンパク質が含まれています。しかし、「ご飯だけ」「パンとヨーグルト」のようなありがちなメニューでは、タンパク質は不足します。特に朝食のタンパク質は不足気味ですので、タンパク質を多く含む主菜(肉、魚、卵、大豆製品、乳製品)を必ず食べるようにしましょう。
次回以降のコラムでは、「タンパク質と筋合成」「食事と睡眠」と、タンパク質にまつわるお話をお伝えします。
今回、紹介するのは「炊飯器で作る鶏ハム・ニンジンラぺ添え」です。
鶏むね肉は皮つきでも100gで191kcal、タンパク質19.5gです。皮なし100gでは108kcal、タンパク質22.3gで「高タンパク質、低脂質食品」として近年人気の食品です。コンビニエンスストアには「サラダチキン」として売られており、そのまま食べられるため、補食に食べているアスリートも多くいます。
サラダチキンは家庭でも簡単に作ることができます。冷蔵や冷凍保存でき、主菜や副菜に幅広く使うことができます。炊飯器で簡単に作れるので一度、チャレンジしてみてはいかがでしょうか。
ニンジンラぺのようなサラダも作っておけば、鶏ハムと一緒にパンに挟んでサンドイッチを作れます。朝食にも最適なメニューです。