私が勤務する順天堂大学医学部附属順天堂医院・浦安病院の女性アスリート外来で、「買い物するときに栄養表示のどこを見るの?」のと聞くと、「エネルギーと炭水化物、脂質」と答えるアスリートが多くいます。体型をそんなに気にしていなくても、脂質は気になる…というアスリートは多い印象です。

確かに脂質のエネルギーは、炭水化物・タンパク質が1gあたり4kcalなのに比べて、倍以上の9kcalもあるため、少し入っているだけでも高エネルギーになる場合があります。そのため、料理になるべく油を使わず、脂質の少ない食品を多用するアスリートがいます。

脂質は本当に悪いものなのでしょうか。今回は脂質の役割について再確認し、上手な使い方ができるようなお話をしたいと思います。

身体にとって脂質の役割とは

脂質は細胞膜などの膜の構成物質で、身体にあちこちにあります。細胞膜の機能維持に役立ち、皮脂として皮膚を守ったり、脂溶性ビタミン(ビタミンAやEなど)の吸収を助けたりします。

消化に時間がかかるため空腹感の軽減につながり、貯蔵脂肪として皮下などに貯めておくこともできます。高エネルギーであることは逆に、効率よくエネルギーを摂取できることから、必要なエネルギー量を確保するために多くの量を食べなければならないアスリートにとっては、油の使い方ひとつで食事の「カサ」を減らすことが可能になります。

脂質摂取が多いとどうなるのか

脂質の摂取が多いということは、必然的にエネルギーを多く摂ってしまうことです。運動で消費するエネルギーとの不均衡が起きれば体重が増加します。メタボリックシンドロームのおじさまたちのように、揚げ物が好きでよく食べるというアスリートはあまりいませんが、間食でお菓子やナッツ類をよく食べるアスリートは、本人が意識しないうちに摂りすぎになっていることが多くあります。

逆に脂質不足だと何が起きるのか

一方で不足すると、皮膚炎や脱毛などが起きます。料理に油を使わないだけでなく、ドレッシングはノンオイル、牛乳などの乳製品は低脂肪を愛用しているアスリートの中には、肉を一度茹でて油を落としてから使うという人もいますが、あまりにも制限しすぎると、「肌がカサカサしてきた」「髪の毛が薄くなってきた」など、見た目にも現れます。

脂質の役割から、不足すると細胞の膜が弱くなることが分かりますが、筋肉や骨にも「筋膜」「骨膜」という「膜」があるため、「筋膜炎」や「骨膜炎」などの故障につながります。疲労骨折まではいかないものの、故障が多くなかなか治らないアスリートは脂質不足のことがよくあります。また同時に脂溶性ビタミンや必須脂肪酸も不足していることがあり、免疫力も低下します。

適量を摂るために心がけること

自分の適量を摂るためには、1日3食をしっかり食べて、間食・補食は本来の意味である「軽い食事」を心がけることが大切です。一般的には、料理や調味料として油は、1日大さじ1杯程度の摂取を推奨していますが、活動量が多いアスリートは例外です。活動量が少なければ一般人程度でよいですが、多ければ油も多く取るべきです。特に必要量が多く、食べきれないアスリートには「サラダにオリーブオイルをプラスする」「煮物の野菜を一度炒めてから煮る」といったように料理に油をプラスすることで、食べる量を増やさなくても必要なエネルギーを摂れるようになります。

食品の種類や部位、料理法によっても含まれる脂質が異なります。例えば、鶏肉は皮と身の間に脂が多いので、「皮つき」より「皮なし」の方が脂質は少なくなります。豚肉は「バラ肉」や「ロース肉」は見た目にも脂の部分が多く高エネルギーですが、「もも肉」や「ヒレ肉」は脂質が少なめです。洋菓子より和菓子の方が脂質は少ないものが多く、料理法では「茹でる・蒸す」→「焼く・炒める」→「揚げる」の順に脂質が多くなります。

自分にとっての適量を摂ることが、良いコンディションを維持する秘訣になります。

今回、紹介するのは「揚げないカボチャのスコップコロッケ」です。コロッケといえば「揚げ物」で高エネルギーな料理です。しかし、このコロッケは油で揚げずにパン粉を振って焼いていますので、油で揚げた場合より100kcal近くエネルギーを抑えることができます。

表面にオリーブオイルを振りかけているので、カボチャに含まれるビタミンAの吸収率は上がりますし、パン粉がサクサクになって揚げたものに近い食感が得られるので、揚げ物が好きで食べたいけれど、控えているというアスリートにはおススメです。

女子アスリート/管理栄養士・佐藤郁子