高校野球の春季関東大会で、センバツ優勝の東海大相模(神奈川)を破った日本航空(山梨)。春夏合わせ6回の甲子園出場を誇るその影には、徹底した栄養管理があった。
味と量、体調面も考慮したバランスよい食事
午後6時。広大な敷地のほぼ中央に位置する食堂に、練習を終えた選手たちが集まってきた。
「ちょっと痩せたかな? 食欲が落ちている?」
「元気がないね? 体調が悪いのかな?」
目に留まった選手に、声をかけているのは管理栄養士の浅川り恵さん(34)。業務委託の学校が多い中、同校は全日制の中に給食課があり、学内の食堂で寮生活をする生徒約700人の3食、また通いの生徒にも食事を提供している。給食課には浅川さんが常時勤務。定期的に厨房(ちゅうぼう)にも入り、生徒の様子を細かくチェック。浅川さんは「学生に合ったものを、現場や選手の声も聞きながら食事に反映できるのが一番大きな強みだと思います」と話す。
1カ月のメニュー表には、バラエティー豊かな献立が並ぶ。浅川さんが栄養面を配慮しながら、高校生の口にあったものを作成。「栄養価はもちろんですが、ボリュームに、彩り。1カ月内で味付けがかぶらないように。生徒たちが飽きないメニューを心がけています」。朝はおかずが2品に、納豆と生卵、ふりかけ、ノリにご飯とみそ汁。昼と夜は丼ものと副菜、ワンプレートの場合は副菜が3~4品、ご飯とみそ汁にデザートが1品。和洋中、家庭料理と何でもあり。時にはすき焼きやガパオライス、シシリアンライス、ご当地料理などメニューは豊富。寮生のために土日も稼働しているため、平日以外の練習でも、常に温かい食事が提供される。
栄養面も、スポーツ選手向けに計算されている。「お米、炭水化物もそうですがタンパク質の吸収を効率良くするために、ビタミン類もしっかり摂りたい。でも、1食で完結するのは難しい。そこで、前後、または1週間のバランスで考え、摂取できるようにしています」。
おいしくて栄養のバランスがとれているに越したことはないが、選手の好みを考えると難しいときもある。「まずは、食べてもらうにはどうしたらいいかを大前提に考えています」。例えば、人気のラーメンは脂質が多い。昼に提供した場合は、夕食に生野菜を多くしたり、100%ジュースでビタミンを補充するなど、全体を見てメニューを作成。他の部活とメニューは一緒でも、運動量の多い野球部の選手には、量を多めに調整するなど配慮。味、量、そして選手の体調面。全てに、管理栄養士の目が行き届いている。
管理栄養士が現場にいる強みも生かされている。生徒の好みの味に仕上げるため、浅川さんら厨房スタッフは常に研究を惜しまない。ソースの味ひとつにこだわり、その味付けもバランスは欠かさない。「選手のみなさんは運動をしているので、お肉料理は少し濃いめのソースが好まれます。その場合は、一緒に提供するスープの塩分を控えながら、うま味を出す工夫をするんです」。全体のバランスを見ながらだしや味付けの工夫。これも、現場に管理栄養士がいるからこそできる強みだ。
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