<スポーツする人の栄養・食事学/第1章 からだにいい食事や栄養とはなにか(9)>
Q、かぜなどの体調不良を予防したり、回復を早める食事法はありますか?
A、どんなに体をきたえていても、どんなに注意をしていても、生身の人間であれば、かぜや夏バテ、強い疲労感などの体調不良に悩まされるものです。体調不良は、運動のパフォーマンスに悪影響を与えることに疑いの余地はありませんから、その予防や早い回復のためには、バランスのよい食事と、ポイントを絞った食事で、万全のコンディションの保持や回復に努めたいところです。
かぜ予防と効果的な栄養素
日々のきびしいトレーニングによって頑強な肉体と身体能力を備えたトップアスリートですが、むしろ一般の人よりかぜをひきやすいと聞くと意外に思われる方もいるでしょう。
長年、オリンピックの日本代表選手団本部ドクターを務めてきた早稲田大学スポーツ科学学術院の赤間高雄教授によれば、2012年のロンドンオリンピック開催中に医務室を訪れた選手でもっとも多かったのはかぜの症状で約4割、2位が胃腸炎などの消化器系、3位が皮膚系で、この順位は、オリンピックや大きな国際大会ではいつものことなのだそうです。
その理由として、適度な運動では上がる免疫機能が、逆にオリンピックに出場するようなアスリートが行う激しい運動によって下がってしまうことが挙げられます。 免疫機能の指標に使われる「SIgA(分泌型免疫グロブリンA)」は、唾液、涙、鼻粘膜や消化管分泌液などに含まれる抗体で、ウイルスや細菌が粘膜部に吸着するのを防いでくれます。唾液検査をしてSIgAの量が多ければ、免疫機能が高いと判断できます。
特に、フルマラソンや自転車のロードレースのような持久力系の競技は練習量が多く強度も高いため、その分強いストレスがかかります。そのストレスによって分泌されるコルチゾール(副腎皮質ホルモン)は免疫機能を抑える作用があり、SIgAの量を低下させるために病気を発症するリスクを高めてしまうのです。
かぜは、一般的には「急性気道感染症」と呼ばれ、ウイルスが原因の呼吸器の感染症です。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と同じ飛沫感染や接触感染が感染経路ですから、感染予防対策としてマスクの着用、こまめな手洗いの徹底が効果的です。
しかし、競技中や練習中にマスクの着用や手洗いはできず、汗をぬぐった手で口や鼻にふれてしまうと感染しやすくなります。そのため、ふだんから基礎体力を強化して免疫機能を高め、ウイルスに感染しにくい体をつくっておくことが大事です。
特に、かぜをひきやすい季節は、「抗酸化ビタミン」と呼ばれるビタミンA、C、Eや、ポリフェノールの摂取が重要です。ビタミンAは、鼻やのどの粘膜を強化し、ビタミンCは免疫力を高め、ビタミンEは血行をよくし抵抗力を高めます。ポリフェノールは抗酸化作用が強く、活性酸素などの有害物質を無害化する作用があります。また、免疫力を高め、体を温めるたんぱく質が豊富な食品もしっかりとりましょう。
こうした栄養素は、動脈硬化を起こしやすくする過酸化脂質や、免疫機能の低下を引き起こす活性酸素の傷害を抑える働きがあります。
健康のための適度な運動は免疫機能を高めますが、高強度の運動や運動のしすぎは免疫機能を低下させます。かぜをひいたら、パフォーマンスは間違いなく落ちますから、万全のかぜ予防対策が必要です。
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