水分補給は競技の成績を左右する
試合中の水分補給はまた、熱中症の予防だけでなく、競技の成績を大きく左右します。のどの渇きを感じてからでは遅いので、強制的に水分補給タイムを設けるなどして、できれば15~20分に1回、200mlくらいのこまめな水分補給を習慣づけましょう。
真水よりもスポーツドリンク
では、どのようなドリンクを補給したらいいでしょうか。
体に含まれる水は真水ではありません。汗をかくとしょっぱい味がするのは、ナトリウム、カルシウム、カリウム、マグネシウム、そして塩素など、イオン(電解質)と呼ばれる正負の電荷をもつ元素を含んでいるからです。このイオンの微妙なバランスによって体の水分(体液)が保たれています。
ところが、一度に大量のドリンクを飲んでしまい体内の水分量が過剰になってしまうと、イオンの微妙なバランスが崩れ、命にも関わるさまざまな症状が出る「水中毒」の状態を招いてしまいます。
水中毒には、血液中のナトリウム濃度が大きく関係しています。水分だけを補給してナトリウムを補給しないと血液中のナトリウム濃度が低下し、そこで起こるのが「低ナトリウム血症」です。
低ナトリウム血症の初期の段階では、動作や反応が緩慢になり、軽度の疲労感がみられますが、症状が進むと、頭痛、嘔吐、食欲不振、筋肉のひきつりの発作、錯乱、幻聴などが生じ、やがては無反応状態や昏睡状態になり死にいたることもあります。
水分はたくさんとっているが、だるさや体調不良で水中毒かもしれないと疑ったら、まずは水分補給量を減らしてみましょう。さらには、真水の代わりに体液に近いスポーツドリンク(ハイポトニック飲料)や経口補水液を飲めば、水中毒を起こさないだけのナトリウムを摂取できます。
水分補給のタイミング
水分補給のもう1つのポイントは、そのタイミングです。
①試合(練習)前……脱水症状のままで運動をはじめるとパフォーマンスが落ちます。20~40分前に250~500mlを補給します。前夜にアルコールを多量に飲むのは避けます。
②試合(練習)中……運動をはじめた後も早い時期から可能な限りこまめに水分をとるようにします。気温や湿度によっても異なりますが、コップ1杯程度の水分を15~20分おきに飲むのが望ましいです。水分を一気に「ゴクゴク」と飲みたい気持ちは分かりますが、そうすると尿として排出されやすくなります。点滴と同じぐらいとまでいかないにしても、「チビチビ」とゆっくり飲むのが効果的です。
試合や練習が長引きそうなとき、激しい動きが多いときは、糖質の濃度が4~8%のスポーツドリンクでエネルギーを補給します。高温多湿で汗の量が多いときは、熱中症予防のために100mlあたり40~80mgのナトリウムを含んだスポーツドリンクがおすすめです。
温かいものより冷たいもののほうが吸収されやすいので、6~13℃ぐらいが適温です。6℃は冷蔵庫から出したとき、13℃は蛇口から出る水道水くらいの温度です。飲み過ぎには注意します。
また、マラソン選手がレース中に、水を含んだスポンジを絞って頭から水をかけていますが、飲むだけでなく、皮膚に直接水をかけるのも、熱を下げる効果があります。
③試合(練習)後……体内で失われたエネルギーや水分を、スポーツドリンクや100%果汁ジュースなどでしっかり補います。もしできたら、試合(練習)の前後に体重を量っておくといいかもしれません。両方を比較して、試合(練習)後に体重が落ちていたら脱水していることが考えられますので、よりこまめな水分補給で体重を戻すことが大切です。
スポーツをする人にとって、水も重要な栄養素の1つと考えましょう。
(つづく)
「スポーツする人の栄養・食事学」(樋口満、集英社新書)より抜粋