<スポーツする人の栄養・食事学/第2章 スポーツをする人はなにをどう食べたらいいのか(9)>
Q、無理なく体重を増やす食事のむずかしさはどこにありますか?
A、増量は、ただ体重を増やすのではなく、体脂肪量の増加を抑えながら半年から1年かけて筋量を増加させるのが目的です。筋量を増やすには、1日あたり500~1000kcalのエネルギー摂取量の付加が必要で、体脂肪量が増えない程度に脂質を抑えた、糖質やたんぱく質が豊富な食品の摂取が推奨されています。代謝に効果的なビタミンB1やビタミンC、ミネラル類も重要な栄養素です。
減量の項でもふれましたが、エネルギー摂取量が消費量を上回る状態が続けば、体重(筋肉を中心とした体たんぱく質と体脂肪量)は増加します。たとえば、エネルギー摂取量と消費量の差が1日あたり100kcalとすると、1年間で3万6500kcalのエネルギーが蓄積されます。すべてのエネルギーがたんぱく質として筋肉などに蓄積されればいいのですが、実際にはそのようなことは期待できず、多くの過剰に蓄積されたエネルギーは体脂肪となってしまいます。そして、すべてのエネルギーが体脂肪として蓄積されれば約5kg増加する計算になります。
しかし、現実にはそう簡単に計算どおりというわけにはいかず、体格、代謝的な適応、基礎代謝量の変化、食欲などについても把握しながらエネルギーバランスを調整する必要があります。
体格が大きい方が有利な競技が多い
なぜ増量したいのか、その理由は、競技種目やそのポジションによっては、体格が大きいほうが試合で有利と考えられるからです。
実際には、身体組成に着目せずにただ体重を増やすことだけを目標に指導されているケースも見受けられます。過食や間食を続け、脂質の摂取過多による栄養バランスの乱れ、サプリメントの多量摂取などによって、わずか1年で10~15kg程度増量した結果、体脂肪量や内臓脂肪面積の増加が著しく、メタボリックシンドロームの診断基準を上回ったという事例も報告されています。アスリートといえども、無謀な増量は、間違いなく健康リスクを高めることを理解しておく必要があります。
体脂肪量を増やさず筋量を増やす
増量は、ただ体重を増やすのではなく、体脂肪量の増加を抑えながら筋量を増加させるのが目的です。そのために、体重とともに身体組成の変化も忘れずにモニタリング(計測した値の変動を確認する)し、そのデータを食事・栄養摂取に適切に反映させなければいけません。
増量は、いつまでにどれだけの量を増やすのかという目標を設定して、半年から1年かけて長期に行うのが一般的です。たとえば、体脂肪量は変えずに1週間で0・2~0・3kgの体重増を目標とし、エネルギー摂取量を1日あたり500~700kcal増やした場合、8週間程度で除脂肪量が2・7kg(3・2%)増加したという事例があります。急激な増量は、除脂肪量よりも体脂肪量を増やす可能性が高いので注意しましょう。
筋量を増やすためには、1日あたり500~1000kcalのエネルギー付加が適切であり、たんぱく質や糖質が豊富な食品の摂取が推奨されています(国際オリンピック委員会のスポーツ栄養コンセンサス)。
三大栄養素の摂取バランスが重要
増量のためには、エネルギー摂取量の付加だけでなく、三大栄養素の摂取バランスも忘れてはいけません。
<たんぱく質>
筋肉づくりに欠かせない栄養素は、今ではだれもが知っている、主菜に多く含まれているたんぱく質です。
練習期では、エネルギー摂取量が十分であれば、1日に体重1kgあたり1・2~2・0g程度の摂取が推奨されていますが、筋量を増やすには、たんぱく質合成量が分解量を上回る必要があります。そのために、練習の直後に、体重1kgあたり0・5g程度のたんぱく質と、体重1kgあたり1~1・2g程度の糖質を同時にとると、体たんぱく合成にとってより有利になることが報告されています。
<糖質>
骨格筋をつくるためには日々のトレーニングが必要で、骨格筋を動かすエネルギー源となる筋グリコーゲンのレベルを維持するには、糖質を多く含む主食の摂取が大切です。
摂取の目安としては、1日1時間程度の中等度トレーニングを行う場合は体重1kgあたり5~7g、1日1~3時間の中~高強度トレーニングを行う場合は6~10gの摂取が推奨されています。しかし、糖質のとりすぎは脂肪の蓄積につながる可能性があるために、10gは超えないほうがいいでしょう。
また、筋グリコーゲン合成のためには、運動終了後30分以内に、体重1kgあたり0・1~0・4gの糖質を摂取することが推奨されています。
運動や練習後すみやかにというのがポイントですから、簡単に口にすることができる補食を持参しておくとよいでしょう。
<脂質>
日本人の日常的な脂質の総エネルギー摂取量あたりの比率は低いため、増量の期間中でも、平均的なエネルギー比率は30%以下が適していると考えられます。脂質のエネルギー比率が30%を超えてしまうと、骨格筋量より体脂肪量が増える可能性があります。
1日のエネルギーや栄養素の摂取量を増加させるには、1日3食の各食事量を無理やり増やすよりも、3食の間におにぎりやパンなどの補食をはさんで摂取するほうが、スポーツをする人にとっては実践しやすいかもしれません。
<ビタミン・ミネラル類>
増量にあたっても、減量時と同様に、代謝に効果的なビタミンB1やビタミンC、ミネラル類も忘れてはならない重要な微量栄養素です。それらを多く含む副菜をしっかりとりましょう。