<スポーツする人の栄養・食事学/第2章 スポーツをする人はなにをどう食べたらいいのか(14)>

Q、飲酒はスポーツをする人にどのような影響がありますか?

A、アルコールには、ストレスの解消や人間関係を円滑にするメリットもありますが、注意すべきデメリットもあります。好きなだけ酒を飲むことと運動のパフォーマンスを上げることは両立しません。飲むにしても、体への影響を軽減させる飲み方が求められます。

運動で汗を流した後のビールの味は、特別おいしく感じるものです。中には、その醍醐味を味わいたいがためにスポーツをすると公言する人もいて、酒好きにとってこの瞬間はどうにもたまらないようです。しかし、スポーツをする人にとって、飲酒はいくつかの理由で注意が必要です。

①栄養バランスが悪くなる(栄養の吸収阻害)

飲酒をともなう食事は、往々にして栄養のバランスが偏りがちになります。お酒がまずくなるからと食事らしい食事もとらず、おつまみすら口にしない空酒の人もいて、栄養の摂取不足につながります。

加えて、アルコールには、ビタミンB1、ビタミンB12、葉酸、亜鉛など、スポーツをする人には欠かせないビタミン・ミネラルの吸収を妨げる働きがあり、栄養素の吸収阻害につながります。特にビタミンB1はアルコールの代謝に必要とされるので、アルコールによる吸収阻害と、アルコールの分解で消費されてしまい、二重の意味で不足してしまいます。その結果招くのは、体力の低下です。多量の飲酒習慣によって、ビタミンB1欠乏による脚気を引き起こす場合もあります。

運動後は体力の回復に努めなければいけませんが、飲酒によってアルコールの分解作業が必要になると、肝臓をはじめとして内臓により負担がかかり、筋肉の再生に必要なエネルギー(筋グリコーゲン)が不足してしまいます。アルコールは、このグリコーゲンの増加を抑制してしまうので、疲労回復の遅れにもつながります。

②筋トレの効果が減少する

運動後のアルコールの摂取によって、たんぱく質の合成を促進し筋肉の成長に欠かせないテストステロンというホルモンが減少し、筋肉を分解するコルチゾールというホルモンが増加してしまいます。飲酒によって、運動後の適切な栄養摂取が阻害されると、筋肉の再合成がうまくいかなくなり、せっかくの筋トレの効果が失われてしまいます。

③水分不足になる(脱水症状)

運動後は汗をかいて水分が不足しています。そのままの状態で飲酒をすると、アルコールには利尿作用があるので、より水分が失われがちになります。脱水状態で飲酒をするとアルコールの分解がうまくいかず、酔いやすくなります。軽度の脱水でも、頭痛、めまい、失神、けいれんなどの症状を引き起こすリスクが高まります。

④十分な睡眠がとれない

なかなか寝つけないときの寝酒も含めて、お酒を飲むとぐっすり眠れると思われがちですが、そうではありません。

かなり酔ってしまうほどの量を飲めば急性的には催眠効果があるのはたしかです。しかし、お酒のアルコール(エタノール)は、アルコール脱水素酵素(ADH)の作用によって主として肝臓でアセトアルデヒドという物質に分解(酸化)され、さらにアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)によって酢酸に代謝されます。このALDHの分解速度が遅い人は、比較的少ない飲酒の量でも、顔が赤くなる、吐き気がする、動悸がする、頭痛がするなどのフラッシング反応や二日酔いの原因となります。アセトアルデヒドには発がん性があり、特に口腔・咽頭・食道の発がんリスクが高くなります。

夜になると、尿をつくる作用を抑える「抗利尿ホルモン」が脳下垂体から分泌されます。しかし、アルコールがこのホルモンの働きを阻害するために尿の量が多くなり、夜中に何度もトイレに起きることを強いられ、それが十分な睡眠を妨げる結果にもなります。

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