体への悪影響を軽減させる飲み方
飲酒はこのように、広範囲に有害な影響を及ぼすものですが、いっぽうで、食欲を増進させ、緊張やストレスを和らげるといった効果もあります。少しでも体への悪影響を軽減させる飲み方をするように努めましょう。
①飲み過ぎない
飲酒によるアルコールは、通常20%程度は胃から、残りは小腸の上部から吸収されます。吸収されるとすぐに肝臓で分解がはじまり、飲酒後の血中濃度は30分~2時間後にピークとなり、その後ほぼ直線的に低下します。
血中のアルコール分解(消失)速度には個人差がありますが、平均すると男性は1時間に9g程度、女性は6・5g程度です(厚生労働省)。
たとえば、ビール中ビン1本(500ml、アルコール度数5%)のアルコール量25gが分解されるのに男性は2・7時間程度、女性は3・8時間程度かかる計算です。ビール1本で済めば、翌日までに分解しきれないことはないでしょうが、飲み過ぎは厳禁です。
翌日に残さない「適量の目安」は、お酒好きには物足りない量かもしれませんが、パフォーマンスを落としたくなければ守るしかありません。
●翌日に残さない適量の目安
アルコール | 目安量 | エネルギー(kcal) |
---|---|---|
日本酒吟醸 | 1合(180ml) | 184 |
ビール | 中ビン1本(500ml) | 197 |
焼酎(甲類) | 0.5合(90ml) | 175 |
焼酎(乙類) | 1合(180ml) | 126 |
ワイン(白) | グラス1杯(120ml) | 90 |
ウイスキー | グラス1杯(60ml) | 134 |
②飲酒の前に水分、ビタミンB1とミネラル補給
運動後は体内の水分が不足しがちで、そのまま飲酒をはじめてトイレの回数が増えれば、さらに脱水が進んでしまいます。飲酒では水分不足を解消できませんので、飲酒の前にはアルコール以外の水分、ビタミンB1とミネラルの補給を心がけましょう。
③飲酒のときは低エネルギー・高たんぱく質の食事をとる
飲酒時の食事は、焼き鳥や刺身、冷や奴、枝豆といった低エネルギー・高たんぱく質、おひたしや酢の物、野菜サラダなどビタミン・ミネラルが豊富なものを選びます。おにぎりやお茶漬けで糖質補給も忘れずに。たんぱく質と糖質は、疲労の回復にもつながります。
中高年ほどアルコール摂取の影響を受けやすい
ここで、日常的な飲酒について、指摘しておきたいことがあります。それは、年齢が上がるにつれて、体はアルコール摂取の影響を受けやすいということです。
生活習慣病のリスクを高める量を飲酒している人の割合は、男性15・0%、女性8・7%で、年齢階層別に見ると、男女ともに50歳代がもっとも高く、男性22・4%、女性15・6%となっています(下の図)。
生活習慣病のリスクを高める飲酒の量とは、1日あたりの純アルコール量が男性40g以上、女性20g以上を指します。たとえば、男性ならば1日に清酒(180ml、アルコール度数15%)は2合以上、ビール(500ml、5%)、ウイスキーハイボール(400ml、7%)は2杯以上、缶チューハイ(350ml、5%)などはおおよそ3杯以上に相当します。
いっぽう、加齢とともに体内でのアルコールの代謝機能が低下すると、アルコールの分解、吸収、排泄に時間がかかり、通常は飲酒の量も減ってくるものです。ところが、代謝機能の低下を自覚できない人も多くいて体へのダメージはより大きくなり、高血圧症、脂質異常症、脳卒中(脳出血、脳梗塞、くも膜下出血)、がんなどの発症リスクが高まります。
中高年世代の飲酒量は、1日あたりの純アルコール量を20g以下にし、週に最低でも2日続けて休肝日を設けることが望ましいでしょう。
特にスポーツをする人にとって、「酒は好きなだけ飲みたい」と「運動のパフォーマンスを上げたい」は両立しません。あなたは、どちらを優先させますか?
(おわり)
※当サイトでは第3章は掲載いたしません。書籍でご確認ください。
「スポーツする人の栄養・食事学」(樋口満、集英社新書)より抜粋