牛乳は栄養成分の宝庫、安価で手軽

飲むとおなかに不快感が出るなら、「あえて牛乳を飲まなくても良いのでは」と考える方もいるでしょう。「牛乳は飲めないもの」として食生活から排除してしまっている人もいるかもしれません。しかし、乳糖不耐のメカニズムを理解すれば、うまく付き合う方法も見つかります。

牛乳は栄養成分の宝庫。成長期の子どもから骨粗しょう症・フレイルなどが気になる高齢者まで、幅広い年代に必要な栄養素をバランスよく含んでいます。

アスリートの食事として、「乳・乳製品」を含む6品(ほか主食・主菜・副菜・汁物・果物)を揃えることを推奨するのも、不足しがちな栄養素が摂れるからで、乳糖不耐でも、乳糖以外の乳たんぱくや乳脂肪、カルシウムなどの栄養素や成分は全く問題なく消化吸収できます。比較的安価で手軽に手に入る食品だけに、病気やアレルギーでない限り、是非取り入れてみたらどうでしょうか。

<牛乳の主な栄養>

必須アミノ酸9種類をすべて含む良質なタンパク質が含まれている。
ビタミンCを除くほとんどのビタミンが含まれており、特にアンチエイジング効果が期待できるビタミンA皮膚や髪を健康に保つとされるビタミンB2、主として動物性食品に含まれ、造血に関与するビタミンB12が豊富。中でもビタミンB2、B12はコップ1杯(200ml)で、それぞれ1日あたりの推奨量の約20%、約25~50%を摂取できる。
骨や歯の材料となるカルシウムの吸収率が高いのも特徴。食品別のカルシウム吸収率を比較すると、植物由来の食品では約19%、小魚でも約33%なのに対し、牛乳では約40%に達する。この吸収率の高さは牛乳が食物繊維を含まず、主要タンパク質であるカゼインや乳糖に、カルシウムをはじめとしたミネラルの吸収を助ける作用があるから。

齋藤氏は「おなかの具合が気になる人は、乳糖の含有量が少ないヨーグルトやチーズなどの乳製品を摂るようにしたり、牛乳を料理にプラスするなど少しの工夫を取り入れてみましょう」と、牛乳との付き合い方として次の6点をアドバイスしてくれました。

牛乳と上手に付き合う6つのポイント

(1)少量ずつ、数回に分ける
一度にたくさんの牛乳を飲むと、小腸での乳糖の分解処理が追いつかず、おなかがゴロゴロしやすくなります。自分のおなかの調子に合わせ、少しずつ複数回に分けて飲むといいでしょう。

(2)温めて、ゆっくり
冷たい飲み物は、腸管を刺激して腸の蠕動(ぜんどう)運動を活発にします。乳糖(ラクトース)は頑丈な構造で、少々の加熱ではガラクトースとグルコースには分解しませんが、人肌程度の温かいミルクを摂取して小腸を刺激しないこと、(1)でも述べた通り、小腸を通過するミルクの量を少なめに飲むことで、乳糖不耐が起こりにくくなるでしょう。ホットミルクのほか、コーヒーや紅茶に加えたり、ココアにしたりするのもおすすめです。

(3)毎日、飲む
大腸に届いた乳糖は善玉菌のエサとなる一方で、悪玉菌のエサになると、体に悪影響を及ぼす酸やガスを発生しておなかを壊す原因に。毎日少しずつでも牛乳や乳製品を摂り続け、善玉菌優位の腸内環境を目指しましょう。食事中や食後に飲む方が胃腸への刺激が和ぎます。

(4)料理にプラスする
牛乳をストレートで飲むのが苦手な人は料理に取り入れてみましょう。味わいにコクが生まれ、料理のおいしさがアップします。甘すぎないのも利点です。

(5)乳製品で摂る
ヨーグルトは乳酸菌の発酵作用により乳糖の20~40%が分解されており、チーズは製造工程で乳糖の大部分が除去されています。いずれもタンパク質やカルシウムといった牛乳由来の栄養がきちんと摂れ、おなかのゴロゴロも起こりにくくなります。

(6)ラクトースフリー(乳糖フリー)の牛乳を選ぶ
日本ではまだ根付いていませんが、欧米では、あらかじめ乳糖の一部を取り除き、残りの乳糖を乳糖分解酵素(ラクターゼ)で完全に分解して乳糖量を「ゼロ」にした「ラクトースフリー」の牛乳がポピュラーです。基本的には乳糖を全く含んでいないので、乳糖不耐の人でも気軽に飲めます。一方で、乳糖を取り除いているため普通牛乳よりも甘味が少なく、物足りなさを感じる人がいるのも確か。ラクトースフリータイプミルクは、料理や調理に使用しても栄養が損なわれたり、味が変わったりすることはないため、栄養価アップのために利用すると良いでしょう。

明治TANPACTラクトースフリータイプミルク「明治TANPACTみんなのミルク」と栄養表示より
明治TANPACTラクトースフリータイプミルク「明治TANPACTみんなのミルク」と栄養表示より

このように、少しの工夫で牛乳を取り入れることができるかもしれません。どれくらい摂れるのかは個人差があるので、体調を見ながら摂取できる方法や量を確認することをおすすめします。

【アスレシピ編集部】

齋藤忠夫氏

東北大学名誉教授。国際酪農連盟日本委員会(JIDF)会長、(一社)Jミルク国際委員会委員長 東北大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士。同大学同研究科准教授・教授などを経て、2018年より現職。国内におけるミルク科学研究のパイオニアとして知られ、専門は畜産物利用学、応用微生物学。とくに乳酸菌と発酵乳に造詣が深い。