タンパク質の役割「体で働く」の重要性
ここで改めて姫野院長は、私たちにとってタンパク質は必要なのかを説明してくれました。
(1)全身の20%、脳の40%はタンパク質
タンパク質には大きく2つの役割があります。1つは「体を作る」こと、もう1つは「体で働く」ことです。私たちの体は20%がタンパク質で、筋肉だけでなく、脳、血液、血管、内臓、皮膚など体のすべてがタンパク質で作られています。特に脳の40%はタンパク質ですので、足りなければ脳機能が落ちますし、精神面への影響、認知症の原因にもなります。
(2)代謝などの機能を助ける働き
あまり知られていませんが、タンパク質は酵素、ペプチド、ホルモン、免疫細胞、神経伝達物質等の主成分として、代謝や免疫といった機能を助けるなど、体内でさまざまな役割を果たしています。例えば、酵素(ミネラルとアミノ酸で作られる)。酵素がないとやせません。「やせたい人はタンパク質を摂りなさい」といつも指導しているんですが、タンパク質をとると代謝が上がってやせやすくなります。
また、輸送タンパク質(アルブミン)。薬を服用したとき、薬の成分はいきなり臓器に行くのではなく、タンパク質に結びつき、血液を通って運ばれます。薬の成分を受け取るにもタンパク質が必要です。タンパク質がないと薬が効かないので、栄養状態が悪いとなかなか薬を飲んでも効かないというわけです。
(3)免疫力アップには欠かせない
多くの研究から、免疫を働かせるために摂るべき一番の栄養素はタンパク質ということもわかってきました。皮膚や粘膜、粘液、白血球(好中球、リンパ球、マクロファージなど)、免疫グロブリンなどはすべてタンパク質からできています。タンパク質が足りないと、細菌やウイルスなどの敵から体を守ることができません。
このほか筋肉を収縮させる、指令を出すのもタンパク質です。タンパク質が足りていないと、体は自分の中にあるタンパク質を壊していきます。年をとって体がやせていく、太ももが細くなるというのは、タンパク質不足の状態。そうなると、体だけでなく脳の栄養も足りなくなります。
脳は人間の司令塔ですから、そこがダメになると全部がダメになります。食欲が落ちると、タンパク質だけでなくエネルギーも足りなくなり、しかも消化吸収力は下がっているからまたまた筋肉が落ちて…結果として「フレイル」になってしまうわけですね。気力も落ちて「心理的フレイル」になり、外出するのが億劫になって「社会的フレイル」になり…という負のスパイラルに陥ります。
フレイルも認知症も、発端は脳の機能低下から。その原因の1つはタンパク質不足です。そのことを意識して今から食事を整えて、元気な老後を送れるよう準備を整えていきましょう。
1日に摂りたいタンパク質の例
姫野院長が掲げる1日に摂りたいタンパク質は次の通りです。
例:卵1個、豆腐半丁、豆乳チーズ1個、納豆1パック、肉100g、豆乳200ml、魚1切れ。間食には小魚、ナッツなど
「1日3食+間食で1食あたり20gが目安。アミノ酸スコアの高い肉類、魚介類、卵を必ず1品とった上で乳製品、大豆類を加えるよう意識すべきだ」と言います。かつお節やじゃこなど「ちょい足し」できるものをプラスするのもタンパク質を増やすコツです。
- 参考:タンパク質の多いレシピ
消化吸収力を上げる食材も一緒に
ただし、タンパク質は消化吸収されるまで3~4時間かかると言われます。消化を早める工夫としては、調理に酵素などを使ってあらかじめ分解させておく、よく噛む、消化力を上げる食材を一緒にとるなどがあります。「イワシの梅煮」「サンマの塩焼きに大根おろし」のほか、肉をキウイやパイナップルの酵素で柔らかくしたり、塩麹で漬けたりすると良いでしょう。
姫野院長 和食はそのような工夫がされているものが多く、「そのひと手間」が実は重要といえます。また、何よりも胃腸を整えておくこと。人間やはり、食べることが一番大事です。スポーツ選手も、食べられる選手が一番強いですからね。
心身ともにいつまでも健康でいるには胃腸が健康で、タンパク質をはじめバランスよく食事をとり、適度に運動すること。しかし、たくさん食べられず、食べ物から栄養素を摂りきれない場合は、市販のプロテインやアミノ酸パウダーを使うこと、消化酵素を利用するのも1つの手だといいます。
姫野院長 私は朝食にプロテインパウダー、間食にアミノ酸を使っています。プロテインよりもアミノ酸(タンパク質の最小単位)の方がすぐに吸収されて、胃腸に負担がかからないのです。タイミングや目的によって使い分けてみるといいですよ。
摂りすぎたタンパク質は尿として排出されるものの、過剰に摂取すれば、脂肪として蓄積されますし、脂肪や尿素に作りかえる肝臓や腎臓に負担がかかる恐れもあります。しかし、「使用限度を守って使う分には問題ない」と姫野院長は言います。それよりも、タンパク質不足が続くことの方が怖いのです。
次の記事では、タンパク質の充足を自分でチェックする方法、不足によるメンタルへの影響をお伝えします。
心療内科医、医学博士。ひめのともみクリニック院長。東京医科歯科大学医学部卒業、九州大学医学部付属病院などの勤務を経て、2005年にひめのともみクリニックを開設。豊富な心療内科の経験をもとに、ストレスによる病気・症候群やオーソモレキュラー医学に基づいた栄養療法によるコメンテーターとしてテレビ、雑誌ほかメディアで活躍中。「心療内科医が教える 疲れとストレスからの回復ごはん」(大和書房)をはじめ著書多数。