<トップアスリートの食事:伊藤華英さん>
元競泳女子日本代表の伊藤華英さん(33)は、高校1年から寮生活を始め、16歳で日本代表入りした。初めて出場した2001年世界選手権で100メートル背泳ぎ7位。伸び盛りの新鋭として、一層注目されるようになっていた。
代表入りすると遠征や合宿が続き、練習もより一層厳しくなる。身長の伸びはほぼ止まっており、筋力アップ、パワーアップを狙う時期だが、細身の体にはなかなか筋肉がつかない。1日7キロほど泳ぎ込むと体重が2、3キロも減った。
筋肉つきづらく貧血にも悩む
鈴木陽二コーチからも「太れ太れ」と言われ、板チョコや菓子パンを持ち歩き、エネルギー摂取に努めたが、ハードトレーニングで「栄養失調気味だった」という。17歳で受けた検査で鉄欠乏症貧血であることが分かり、鉄剤を処方され、寮の食事を残さず食べるようにも心がけた。しかし、同年8月のパンパシフィック選手権の前に発熱で5キロもやせてしまうほど、体力的に問題もあった。
長期での体質改善を図り、04年アテネオリンピック出場を目指したが、一歩届かなかった。そこから一念発起。「セルフマネジメントを考えたとき、まずは『食事』だと思った」と、最大の苦手克服に挑むことを決めた。代表チームを担当する管理栄養士に相談したり、国立スポーツ科学センター(JISS)で提供されるアスリート基準の食事を参考にしたりして、自分に必要な食事を学び、食べる力をつけていった。
サプリメントに頼らず自然のもので
朝昼晩とバランス良くしっかり食べ、練習後30分以内に補食でおにぎりなどの炭水化物を摂り、食事回数は1日約6回。「普段の練習で肝臓を使っているので、できるだけ消化が大変なものは食べたくなかった」とサプリメントに頼らず、食事から栄養素をとるようにした。アテネオリンピックで金メダルを獲得していた日本代表のチームメート、北島康介氏が「自然のものから摂らないとダメだぞ」と言っていたのも刺激になった。
体重、体脂肪、筋肉量など、毎日計測する詳細な体組成データとともに、食事データも蓄積。嫌いだった筋トレにも励むようになり、特に上半身の筋力がアップして腕のかきが力強くなった。06年8月、カナダで行われたパンパシフィック選手権女子100メートル背泳ぎで優勝し、主要国際大会で初のメダルを獲得。結果も出した。
とはいえ、海外遠征では食欲不振に陥ることがあった。現地の主食はパンが多いため、米を必ず持参して、酢飯やお茶漬けにして体に入れた。毎日、ご飯を食べることで翌日の体調の変化も体感。足りなかったタフさを身に付けていった。
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