食べた分は消費すればいい
20歳前後の女子選手は食べることが大好きで、1日の楽しみでもある。体重を増やさないように食べたいものを我慢するのではなく、たくさん食べたなら食べた分を消費すればいい。逆の発想を植え付けることで、選手が生き生きと自主的に臨むようになり、記録も伸びるという相乗効果が生まれてきた。
定期的に血液検査を行い、体の状態も確認する。全身に酸素を運ぶ赤血球中のヘモグロビン値は一般女性の正常値とされる12g/dl以上、エネルギー不足かどうかを見る総たんぱく値も7.0g/dlを下回らないようチェックしているが、2年目以上の選手は過酷な練習にもかかわらず、ほぼクリアしているという。
堀は「たくさん食べたいから走る」
練習で走る目標距離は毎月600kmだが、鍛錬期だと自主的に1000km以上走る選手もいる。そのうちの1人、堀は「食べたいから走るんです」と、ちゃめっ気たっぷりの笑顔を見せた。
5年前に入社した頃は故障がちで、今より8キロも重い47キロ。「食べちゃいけないと思って食べていなかったけど、やせなくて…」と満足に練習もできず、もがいていた。
翌年就任した安養寺監督から「食べて良いんだ。バランス良く食べて代謝させることが大切」と学び、食べることへの罪悪感を払拭。何でも食べて走れる体になってきたことで、実力も開花し、気付いたら、ここ1年半以上疲労骨折をしていない。
年数回訪れる高地トレーニングのメッカ、米アルバカーキでの合宿では練習後、特大のポークリブをぺろりと平らげる。走り込みの時期は1~2キロ増えても気にしない。自分で適性体重を知っているから、試合間近になったら、そこに向けて自分で調整。安養寺監督が目指す「自立した選手」としても育っている。
今後、2024年パリオリンピックを視野に入れ、マラソンにも挑戦していくため、骨密度のキープや体作りへの意識は強い。骨強化に関わるビタミンDを日光からも取り入れるため「顔以外は日焼け止めを塗りません」と徹底している。
「軽ければいい訳ではない」内藤
キャプテンの内藤早起子(25)もケガが減った。「もちろん食事が全てではないけれど、監督やマネジャーから知識を教えてもらって、競技に生かすことができている。チームとしてもケガ人が減った」と説明した。
一度、適正数値よりもかなり体重が減ったことがあった。すると、体が浮いて上手く走れなくなったという。「筋肉量も減ったんだと思います。軽ければいい訳ではないということが分かりました」。
一昨年は優勝とは言っても、優勝チームの失格による繰り上がり。ゴールテープを切っての優勝は昨年が初めてのため、「真の連覇を達成し、またあの景色を見たい」と言葉を強めた。また、今大会はTBS系列で全国生中継。出身地の千葉県茂原市が台風19号で被災している内藤は「テレビで見ている地元の方々や友だちに、勇気を与えられるような走りをしたい」と瞳を輝かせた。
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