この日の夕食メニューは、ご飯(ビタミン強化米入り)、鶏の南蛮漬け、モヤシとキュウリとハムの塩ナムル、高野豆腐と鶏肉の煮物、みそ汁(ワカメ、シメジ、キャベツ)、果物(オレンジ、缶詰パイン、リンゴ)。調理場からおかずを渡す際、鈴木さんと奈良さんが使用食材を1人1人に説明し、苦手なものを入れずに渡している様子が見えてきた。
例えば、あえ物は食材をそれぞれ別に準備しておき、提供する際に混ぜ合わせる。キュウリが嫌いな選手はキュウリ抜きの塩ナムルになるし、豚肉が食べられないケニア出身のアモス・キルイ(21)はハム抜き。自分で盛るみそ汁は「苦手な具材が入らないよう、振るい落としている」と奈良さんは笑った。
逆に、好きなものは多めに盛り付ける。「果物が好き」と話す設楽のフルーツ皿には、他の選手の倍ほどの量が乗っていた。
「もう“甘甘”なんですけど、食べないで残すなら最初から盛らない方がいいかと。私だって苦手なものはありますからね。それを食べなくても、他のもので栄養バランスが摂れるようにしていますから」と奈良さんが言えば、「とにかく楽しく、おいしく食べて欲しいんです。ドレッシングもケチャップも好きなように使えばいい。特に制限していません」と鈴木さんも強調した。
まさに「食堂のお母さん」。盛り付けを調整しつつも「これは食べた方がいいよ」などと選手に少しでも口にするよう促してもいる。原も「味がおいしいので、嫌いなものも食べられるようになったし、積極的に食べるようにもしている」と食意識が高まったと話した。
選手ごとにカスタマイズ、ケガも減る
Hondaの選手は1500メートルからマラソンまで専門が広いため、大会日程や調整も様々だ。マラソンに挑戦する選手は数日前から糖質をため込むカーボローディングを行うが、糖質の割合を上げ、おかずも一品増やすなど、選手に合わせて調整する。木村慎(25)は「個人個人に対応してくれて、本当にありがたかった」とそのおかげで自信をもってレースに臨めたようだ。
4年目の木村は長らく故障や体調不良が続いていたが、練習ができるようになったここ1年で飛躍。フルマラソン2度目の7月のゴールドコーストマラソンで2時間12分12秒の自己ベストで8位に入り、3月の東京マラソンで2時間9分台を目指している。さらに、チームで受けたスポーツ栄養講座によって「今の環境が恵まれていることがよく分かった」と食事と運動の関連性に興味も沸いた。小川監督も「走れるようになったのは、食生活が整ったことも大きい」と今後の成長に期待している。
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