「明日香には明日香しかできないことがある」

幼い子を抱える多忙な主婦アスリートは、限られた自分の時間の中で練習をやりくりする。そんな寺田を夫峻一さん(36)が最大限に支えている。娘の保育園や習い事の送迎・付き添いをはじめ、遠征や合宿で家を空ける時は全面的に育児を担当する。

「以前、日本陸連(日本陸上競技連盟)に勤務していたし、アスリートの気持ちが少しは分かるんです」。23歳で陸上を引退。北海道から都内へ嫁ぎ、一時はコーヒーチェーン店でアルバイトをしようとした寺田を「明日香には、明日香にしかできないことがたくさんある」とその経験や能力を生かすべきと諭し、スポーツに関わる仕事や7人制ラグビー挑戦をすすめたのは峻一さんだった。

寺田のアスリート魂の再燃を間近で見ていた張本人も、まさか再びハードルに挑戦するとは予想していなかっただろうが、五輪で輝く寺田の姿を見るのは、峻一さんの願いでもある。

昨年9月、女子100m障害で日本新記録を樹立した寺田は、レース後、夫俊一さんと長女果緒ちゃんと笑顔を見せる
昨年9月、女子100m障害で日本新記録を樹立した寺田は、レース後、夫俊一さんと長女果緒ちゃんと笑顔を見せる

所属先の保育所、アフタースクールまで無料

女性アスリートが結婚、出産に踏み出せない理由の1つに「子どもを預けられない」がある。もちろん、一定期間の休養が必要となり、体力が低下することもあるが、復帰後の子育てと競技の両立を考えると、ちゅうちょする選手も少なくないだろう。

出産後に夏季五輪に出場した選手は、柔道の谷亮子、バレーボールの荒木絵里香、射撃の中山由起枝、7人制ラグビーの兼松由香、フェンシングの佐藤希望ら数人しかいない。バスケットボールの大崎佑圭が現在、代表入りへチャレンジしているが、夫をはじめとした家族の理解が大前提となってくる。

公園でかわいくポーズをとる寺田
公園でかわいくポーズをとる寺田

寺田の場合、所属先のパソナグループが企業内保育所で、子どもを預かってくれるのも大きかった。すべて無料で、英語や運動などを教えるアフタースクールまで利用でき、果緒ちゃんも楽しく通っているという。

「まずは旦那選びが重要ですね」と寺田はおどけるが、1番近いところで支えてくれる夫と愛娘のことを思うと、やる気がみなぎってくる。家族と応援する人々の夢をのせて、寺田は走る、跳ぶ。

【アスレシピ編集部・飯田みさ代】

陸上女子100メートル障害の東京五輪への道 出場枠は各国最大3枠。6月の日本選手権(大阪)で3位以内に入り、同大会までの対象レースで参加標準記録(12秒84)をクリアした選手が優先的に選出される。6月29日に第1次内定選手を発表予定。

◆寺田明日香(てらだ・あすか) 本名・佐藤明日香。1990年(平2)1月14日、札幌市生まれ。小4で陸上(短距離)を始める。恵庭北高では高校総体100メートル障害を3連覇。北海道ハイテクACで競技を続け、日本選手権3連覇、09年世界陸上に出場するも、13年に1度現役を引退。16年12月の日本ラグビー協会のトライアウトに合格し、17年1月から日本代表練習生として活動。18年12月にラグビー引退と陸上への復帰を表明し、19年日本選手権は3位。同年9月の富士北麓ワールドトライアルで12秒97の日本記録を更新。家族は夫と1女。168センチ、56キロ。O型。