高校野球は各地で独自大会が開催されています。強豪チームの食の現場をリポートする「寮めし」。今回は茨城・つくば秀英高野球部にスポットを当てます。「来年は甲子園に連れて行きますよ!」。選手たちのパワーの源は、寮の肝っ玉母さんが作る食事にありました。
食堂隣に住み込み、何でも話せる存在
つくば秀英の夕食はにぎやかだ。寮母の矢口千恵子さん(70)が、食事中の選手たちに声をかける。「ちゃんと食べなさいよ、ホラ、野菜もね」「おかわり、たくさんあるわよ」。選手たちも「矢口さん、これおいしいです!」と笑顔で答える。そこには、家庭の温かさが漂っていた。
矢口さんが、寮の食事の手伝いを始めたのが10年近く前。当時、ミユキコーポレーション(茨城県つくば市)のグループ会社に勤めていたことが縁だった。以後、何度か離れることはあったものの、火曜日から土曜日までは、食堂の隣にある部屋に住み込み、朝4時30分には起床し選手の朝食作り。午後4時からは夕食作りと、選手の食事を担当している。
寮で一緒に暮らしているせいか、選手たちにとっては何でも話せる存在。夜練習が終わった10時過ぎには「矢口さん、おなかすきました!」と選手たち。夕食の片づけ後に休む間もなく厨房(ちゅうぼう)に入り、おにぎりやそうめんなどの軽食を提供。体の細い選手がいると、おにぎりを学校に持たせることもある。体調が悪い選手がいればおかゆを炊いて体をいたわる。大変そうに見える仕事も「いろんな子供がいて話も聞けるから、楽しいですよ。子供たちは私の元気の源かもね」と、明るく笑う。
寮の食事は矢口さんの会社の本社がメニューを作成。それに子供たちの意見も上手に取り入れ、アレンジを加える。「野菜を入れて、彩りも気を付けていますね」。肉類だけでなく、朝食には魚を食べやすく調理。果物やプリン、ヨーグルトなどのデザートも欠かさない。卵、納豆はいつでも食べ放題。たくさんの差し入れなど、後援会の方々の協力も大きい。
森田健文監督(34)は、食事によるコミュニケーションの効果を実感している。「矢口さんは選手とよく会話をしてくれる。寂しそうな選手がいたら声をかけてくれますし、時には怒ってくれることもある。料理へのこだわりも大事ですが、高校生に関してはコミュニケーションが大事。お母さん代わりになってくれる人がいてくれた方が食欲が増すようです」と、話す。
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