高校野球は各地の独自大会を経て新チームがスタート。そんな中、今回は福島・学法石川に注目します。町から愛されるチームは、新たな目標に向かって、地元食材でパワーアップしています。
地元の食材が選手たちの体を作る
今年、学法石川の選手たちが掲げた合言葉は「みんなで強くなる」。グラウンドでの練習にトレーニング。そして、食事もそのひとつだ。今年4月、地元石川町の廃校になった小学校を改装。それまでは他部と一緒の寮だったが、新たに野球部専用の中谷寮が完成した。寮の食事は、監督や選手からもおいしくたくさん食べられる、と大好評だ。
地元の食材が選手たちの体を作る。夕食は、主菜、生野菜、副菜、果物、ご飯に汁物が並ぶ。生野菜はサラダバー形式で3~4種類のドレッシング。納豆と卵も食べ放題。日替わりの野菜ジュースがドリンクサーバーで用意され、冷蔵庫の牛乳は飲み放題。お米はもちろん、野菜のほとんどは地元の農家から仕入れた食材ばかり。ホテルのレストランのような光景だ。佐々木順一朗監督(60)は「地元の方々の支えが大きく、本当にありがたい」と感謝する。
調理スタッフも、地元から採用。佐々木監督も「何よりスタッフの方々の食事に対する意識が高いので安心してお任せしています」と大きな信頼を置いている。中でも、調理責任者を務める矢内文子さん(54)の存在は大きい。栄養士が作成したメニューをもとに、矢内さんが全体のバランスなどに、主婦の知恵を絞る。「選手を自分の子供のように考える。もっとこういうものがいいな、お肉ばかりじゃなくて魚も入れましょう。味付けはこっちの方が選手が好きかな、と変更するんです」と矢内さんの一工夫でより充実した食事に生まれ変わる。
時には選手たちの声に耳を傾け、メニューに生かすこともある。そのきっかけは選手のつぶやきだった。矢内さんがこの仕事に就いた当初のこと。朝、学校に出かける選手がすれ違いざまに小さな声でつぶやいた。「何かなぁと思ったら『ギョーザが食べたいです』と言っていたんです。涙があふれましてね。すぐにはできなかったけど、1週間後に夕食に出してあげました」。
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