<キッチンは実験室(56):ショウガの科学>
皆さん、こんにちは、キッチンの科学プロジェクト(KKP)のみせすです。寒くなってきた時期に欠かせないのが、体を温めてくれる薬味野菜の1つ、ショウガ(生姜)ですね。今回はそんなショウガを科学して、そのパワーに着目していきます。
新ショウガと古根ショウガ
いわゆる「ショウガ」と呼んでいる黄金色のものの正式な名称は「古根ショウガ(ひねしょうが)」と言い、茎の付け根が鮮やかな紅色をしているものを「新ショウガ」と呼びます。出荷される時期の違いによって呼び名が異なり、使い方も違います。
●新ショウガ
収穫してすぐ出荷するもの。柔らかくてみずみずしくて甘い。
白い部分が多く、茎先が鮮やかな赤い色ものが新鮮。
ショウガの甘酢漬け(ガリ)として使われる。
●古根ショウガ(根ショウガ)
新ショウガを貯蔵して翌年になって出荷したもの。
貯蔵の間に水分が抜けて硬くなり、辛みが出る。
肉付きがよく、皮にシワや傷がないものがおいしいサイン。
体が温まるメカニズム
ショウガが入ったものを飲んだり食べたりすると、体がポカポカしたことはありませんか。これは、ショウガに含まれるピリッとした辛味成分「ショウガオール」によるものです。ショウガにはジンゲロン、ジンゲロール、ショウガオール、シネオールといった特有の成分がありますが、ショウガオールには体を温める働きがあります。
具体的に仕組みを説明すると、ショウガオールによって舌や喉の奥、胃の中にある「温かさを感じる神経(温覚)」が刺激され、脳に伝わることで温かさを感じます。熱いものを食べているわけではないのに温かく感じることで、脳が体温を下げようと働き、血行を良くしたり、汗をかいたりという反応が起きると考えられています。
ちなみに、この温覚は「TRPV1チャネル」と呼ばれています。今年のノーベル生理学・医学賞は唐辛子の辛味(カプサイシン)を使ってTRPV1を発見したものに贈られました。これらの発見は慢性的な痛みの治療にも応用されています
生と加熱で働きが変わる
このように温める働きを持つショウガですが、食べ方や調理の仕方でその働きや効能が変わってしまうのも特徴です。
実は「ショウガオール」は、生のショウガには少ししか含まれません。生のショウガに含まれる「ジンゲロール」が加熱・乾燥されることで初めて「ショウガオール」に変わるのです。冷え性を改善したい方は、ショウガを加熱してから摂るようにした方がいいですね。
●生のショウガ=「ジンゲロール」が強い殺菌力を持ち、体の免疫力を高める。
●加熱したショウガ=ジンゲロールが「ショウガオール」に変わり、体を温める働きを持ち、冷えの改善に使われる。
生のショウガは「生姜(ショウキョウ)」と呼ばれ、胃腸の調子がすぐれない場合に用いられます。一方で、加熱・乾燥したものは「乾姜(カンキョウ)」と呼ばれており、体の中から温める作用が強く、下痢や便秘の方に用いられます。なお薬膳や漢方医学の世界では、薬の原料の生薬の1つとして使われ、吐き気や食欲不信の改善に使われています。
ガリがピンク色の理由
さて、新ショウガから作られるお寿司に付きもののガリには、白色とピンク色のものがあると感じたことはありませんか。
新ショウガは黄色っぽく見えますが、紫色の色素「アントシアニン」が若干含まれています。甘酢漬けのため、酸性の酢を加えると、紫色の色素によってガリ独特のピンク色を示すのです。ただ個体差があるので同じように甘酢漬けしても、ピンク色の鮮やかさは異なります。
アントシアニンの量は、貯蔵して根ショウガ(古根ショウガ)になると分解されていくので、根ショウガで甘酢漬けを作ってもピンク色にはならず、白っぽい色になります。
なお、「紅ショウガ」は赤シソで鮮やかな赤色にした「梅酢」に漬けているため、あの赤色になります。市販品によっては着色料が含まれていることもあるので、購入前に成分表示を確認してください。
※参考:紫色が酸性でピンクになる理由
・紫色は身体を守る? 野菜を使ったカラフルマジック
・梅を生で食べない理由、梅酒作りになぜ氷砂糖
なぜ寿司の付け合わせに
ガリは生のショウガで作られます。なぜ、お寿司の付け合わせとして使われているのか分かりますか。
生魚を食べるときは食中毒のリスクがつきもの。ましてや衛生状態や流通・保存冷蔵技術が発達していなかった昔は、まさに死活問題でした。そこで、ショウガの「ジンゲロール」や「ジンゲロン」といった強い殺菌効果、胃液の分泌を促し、消化吸収を助ける効果を期待していたのです。
脂の多いネタや味の濃いお寿司の後に食べることで、次のネタとネタの味が混ざらないよう、お口直しとして使われたとも言われています。それらが今も、食文化として根付いているというわけです。
どうして「ガリ」と呼ぶかですが、噛むとガリガリ音がするから、ショウガを削る時にガリガリ音がするから、などという説があります。