「箱とうふ」って知っていますか? 豆腐の種類の1つですが、普段あまり聞き慣れない言葉ですよね。実は、これまでの豆腐のイメージを変えるような食品なんです。

豆腐と言えば、水にたっぷり漬かっているイメージがあります。一般的に知られているのは、つるっと滑らかな舌触りの「絹ごし豆腐」と、濃厚でしっかりとした食感の「木綿豆腐」です。

ただ、これらの賞味期間は長くても2週間ほどと、あまり日持ちがしません。アスレシピの読者の方々は豆腐の効能がお分かりなので違うかもしれませんが、冷蔵庫に常時、豆腐が入っている家庭は結構、少ないと思います。

この点で大きく違うのが「箱とうふ」です。水が全く張っていない「充填豆腐」(じゅうてんとうふ)と呼ばれる種類の1つで、賞味期間はなんと180日間もあります。半年間です。

最近話題の「食品ロス」削減に役立つだけでなく、災害に備えた「備蓄食」にも推奨されて、農林水産省が昨年発行した「食品ストックガイド」に掲載されています。

9月1日は「防災の日」です。台風や豪雨、震災などの自然災害に備えて、タンパク質が摂れる「箱とうふ」を冷蔵庫にストックしておくのも、いいと思いませんか。

その「箱とうふ」を1990年から製造・販売している「さとの雪食品」営業企画管理部の植田一輝部長(39)が今回、箱とうふの世界を教えてくれました。豆腐のオススメな食べ方や商品の比べ方、大豆の産地で異なる栄養価など、豆知識も満載です。

食感は絹ごし、栄養価はそれ以上

さとの雪食品の箱とうふ「四季とうふ」(左)と「富士山の清流とうふ」
さとの雪食品の箱とうふ「四季とうふ」(左)と「富士山の清流とうふ」

「賞味期限が長い豆腐」と聞くと「味はどうなんだろう」、「栄養価が違うのかな」などと思う方もいるでしょう。

植田部長は「食感は絹ごし豆腐と同じ、滑らかです」と説明してくれました。栄養価もほとんど変わらないそうですが、箱とうふは水が張っていない分、栄養素が水に逃げず「同じ豆乳濃度で固めた場合、絹ごし豆腐よりも栄養価は高いです」。

ちなみに、ものすごく簡単に説明すると、豆乳と水とにがり(凝固剤)から作られる豆腐は1度、絹ごし豆腐を作ってから、崩して絞り、固めると木綿豆腐になります。そのため、大豆の使用量は木綿豆腐の方が、絹ごし豆腐よりも多くなります。

豆腐のオススメな食べ方や大豆の種類、カロリーなどの成分表示による見極め方は、次のページに記載しています。

販売は国内で2社、30年前から紙容器

さとの雪食品本社(徳島県鳴門市)
さとの雪食品本社(徳島県鳴門市)

徳島県に本社を置くさとの雪食品が、箱とうふを作り始めたのは1990年。グループ会社の「四国化工機」が飲料を充填する機械を製造していたことから、豆腐でも新たな作り方ができないかと考えたことがきっかけでした。当時の商品の賞味期限は15日間。これでも長い方ですが「改良に改良を重ねて、2004年には現在の180日間が担保できるようになりました」(植田部長)。

賞味期間を保たせるためには、無菌状態を作ることが重要です。ただ、豆乳は殺菌温度を高くすると固まりません。いい案配の温度で殺菌しつつ、無菌状態を保って豆腐を充填させるには、高度な技術が必要になります。そのため、箱とうふを製造しているのは、さとの雪食品を含めて国内で2社だけ。値段が、一般的な豆腐より少し高めな理由の1つです。

それでも箱とうふ作りを続けたのは「可能性」に懸ける思いもありました。最近はプラスチックごみ問題や食品ロスの問題が話題です。豆腐の一般的な容器はプラスチックですが、箱とうふは90年の販売当初から特殊な紙パックでした。賞味期限の長さは食品ロスを削減する役割も担えます。

「当時は、現在のような世情はなかったと思いますが、“賞味期間が長い紙パックの豆腐”という新しい商品には未知の可能性があるのではないか、という経営トップの思いで開発したと聞いています」と植田部長。環境への優しさを考えた開発時の発想が、30年の時を経て現在の課題にマッチしました。

国も推奨、冷蔵庫に常に豆腐ある生活

農水省発行の「食品ストックガイド」
農水省発行の「食品ストックガイド」

賞味期限が長いことは、食品ロス削減だけでなく、「備蓄食」の役割も担えます。

備蓄食とは、災害時に使用する「非常食」の役割だけでなく、普段の生活から「日常食品」としても使える食品のことです。

「お豆腐って、常に冷蔵庫にないんです」と植田部長が寂しそうに明かしました。一般的な豆腐はあまり日持ちがしませんから、多くの人は購入する際、あらかじめ今日のメニューに決めていて、すぐ使い切ってしまうと思います。だから、いつも冷蔵庫に入っている家庭はほとんどないのです。

しかし、賞味期限が長い上にタンパク質がきちんと摂取できる箱とうふは、農水省も備蓄食の1つに推奨するほどで、昨年発行の「食品ストックガイド」にも掲載されています。

9月1日は「防災の日」です。災害時などに備えて普段の食品を少し多めに買い置きし、消費した分を買い足して備蓄する「ローリングストック」が薦められています。改めて防災を考えた時、冷蔵庫の中に箱とうふが入っている状況も悪くないのではないでしょうか。

「牛乳や卵のように常に冷蔵庫に置いてあって、『豆腐があるから食べようか』と手に取っていただけたら理想です。あっては欲しくないですが、災害の備えにしていただく使い方もできます」。

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