<アスリートにとって大切な睡眠の話・下>

前回のコラムで、アスリートのコンディショニングにおいて、睡眠はとても重要な要素だというお話をしました。今回は「良い眠りのために何をすれば良いのか」をお話ししたいと思います。

良い眠りに必要な「時間」「リズム」「質」

良い眠りのためには「時間」「リズム」「質」の3つの要素があります。

1つめの「時間」とは睡眠時間のことで、短いと睡眠不足になり、身体に悪い影響を及ぼします。逆に長くても死亡率は上がり、7時間前後が一番死亡のリスクが低いとされています。

2つめの「リズム」とは、本来備わっている体内時計に合わせて睡眠をとると、良い眠りを得ることが出来るということです。人間の体内時計では深夜2~4時前後に睡眠のピークを迎えるため、この時間にしっかり睡眠をとるためには、22~23時に入眠するのが良いようです。

3つめは「質」です。人間は寝床に入るとまずノンレム睡眠(深い睡眠)が起きて、その後、次第にレム睡眠(浅い睡眠)に移るというサイクルを、ひと晩に4~5回繰り返します。1サイクルは80~100分で、明け方が近づくほど1サイクルの時間は短くなり、レム睡眠が多くなって眠りは浅くなります。

ノンレム睡眠の時に起きようとすれば寝起きは悪くなり、サイクルとサイクルの間の眠りが浅いタイミングで起きるとすっきり目覚めることが出来ます。「規則正しいサイクルであるか」と「サイクルと起床時間がかみ合っているか」が「質」になります。

つまり、良い眠りのためには、「22~23時に入眠」し、「7時間程度の睡眠時間を目安」にして、「レム睡眠とノンレム睡眠のサイクルの間に起床時間をもってくると良い」ということが分かりました。ということは、起床時間から就寝時間を逆算して決め、生活リズムを作ることがコンディショニングには必要だということです。これがうまくできるようになれば、試合当日や海外遠征などでいつもと違う時間に練習や試合をするときでも、良い体調を保てるようになります。

良い眠りのために心がけるべき5点

良い眠りのために「生活の中で心がけると良い5点」をまとめてみました。取り組んでいない方はぜひ参考にして、毎日の生活に取り入れてみてください。

1、朝日を浴びる

朝日を浴びると、目をつむっていてもまぶたから光が入り、少しずつ覚醒して胃腸も動き始めるそうです。季節や天気にもよりますが、寝ていても朝日が部屋に差し込むように、枕の位置やカーテンを工夫するだけで朝起きやすくなるかもしれません。

2、朝食をしっかり食べる

朝食をしっかり食べないと、1日の1/3のエネルギーや栄養素が不足して様々な不定愁訴を引き起こすことはご存知だと思いますが、朝食は睡眠中に分泌されるホルモン「メラトニン」にも大きく関係しています。良い睡眠を得るには朝食の質も関係しているのです。

朝食で必須アミノ酸であるトリプトファンを摂取すると、体内で「セロトニン」という目からの光の刺激で活動を促す神経伝達物質が作られます。さらに夜になって暗くなると、セロトニンからメラトニンが作られて睡眠を促すのです。朝食でトリプトファンの摂取が少ないと、セロトニンとメラトニンの両方がうまく作られず、寝つきや寝起きが悪くなるようです。

トリプトファンを多く含む食品は、牛乳・ヨーグルトなどの乳製品、納豆・豆腐などの大豆製品、魚類、肉類、卵のタンパク源です。成人が1日で摂取すべきトリプトファンの量は体重1gあたり4mgで、体重50kgの人は200mg程度必要です(WHOの必須アミノ酸推奨摂取量参照)。

アスリートの基本の食事(主食+主菜+副菜+牛乳・乳製品+果物)が摂れていれば不足する心配はありませんが、朝食欠食や「ごはんのみ」「菓子パンのみ」など、偏った食事になると不足します。筋合成の観点からも、朝食からしっかりタンパク源を摂ることが必要と言えます。

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