どうしたら実行できるかが問題
これまで述べてきたことからは、バランスのとれた栄養素を摂取し良好な栄養状態につなげるためのハードルは、たしかに高いことが分かります。
ここに、興味深い調査データがあります。
主食・主菜・副菜を組み合わせた食事を、1日2回以上ほとんど毎日とっていると回答した人の割合は、男性45・4%、女性49%ですが、週に5日以下しかとっていない人たちでも、男性88・7%、女性95・5%が、主食・主菜・副菜の3つを組み合わせるとバランスのいい食事になることを知っています。かなり意識の高いことに正直驚いていますが、つまり、頭では分かっていても、半数近くの人は行動に移せていないのです。
その理由を尋ねると、手間がかかる、時間がない、量が多くなる、外食が多いのでむずかしい、食費の余裕がないといった答えが返ってきます(『平成30年国民健康・栄養調査結果の概要』厚生労働省)。
朝昼晩の食事を準備するだけでもたいへんなのに、毎食5つの料理区分をそろえなければならないとなると、料理をつくる人からはため息が聞こえてきそうです。
公益財団法人日本体育協会(現・日本スポーツ協会)がクラブ、チームやアジア大会参加選手個人を対象に行った食事アンケートでも、選手個人として食事や栄養に強い関心があるものの、なかなか実現できていない現状が明らかにされています。
特に、学生の選手やチームは、専門家による食事・栄養の指導や教育を受ける機会はごく限られていて、実際になにをどれだけ食べているのかといった食事調査を受けたことすらない選手が多くいます。ましてや、日常的に個人でスポーツを楽しんでいる人の場合はなおさらなのではないでしょうか。
では、ハードルが高いからといって、なにもしなくていいのでしょうか。栄養素をバランスよくとって良好な栄養状態になれば、間違いなく競技パフォーマンスが高まることが分かっているのに、ただ手をこまねいているのはもったいないことです。
問題なのは、どう実行するかです。肩ひじを張って、はじめから完璧を目指そうとは思わずに、まずはできることからはじめてみます。そのきっかけづくりのヒントとなるかどうか、次に挙げることを試してみてはいかがでしょう。
できることから始めよう5つのヒント
①単品で済ませないようにする
毎回の食事では、5つの料理区分(主食、主菜、副菜、牛乳・乳製品、果物)をできるだけそろえるのが望ましいのに、どれか1つ、単品で簡単に済ませてしまっては、バランスをとるとらない以前の問題です。
家庭内の食事でも外食でも、主食をベースにして最低でも2つ以上を組み合わせるように努めます。けっしてむずかしいことではありません。スポーツで勝ちたい、結果を出したいというのなら、当事者意識をもって、自分を甘やかさずに、面倒くさいと思わずにやり続けることです。そうすれば、必ず結果につながります。
②ランチョンマットを活用してみる
自分自身の強い思いだけでなく、やるべきことがやれる環境づくりも大切です。
はじめのうちは、なにが主食でなにが主菜かが分からないこともあるでしょうから、たとえば、5つの料理区分がイラストで描かれた「スポーツ食育ランチョンマット」を活用してみてはいかがでしょう。
食卓にランチョンマットを敷き、その上に用意した料理・献立を置いてみれば、主食・主菜・副菜はそろっているか、なにが足りないかがすぐに確認できます。
このランチョンマットは、小学生を対象としたスポーツ食育プログラム開発に関する調査研究の一環として、日本体育協会が作成したものです(上は参照したイメージ図)。
こうした工夫は、スポーツをする子どもたちだけではなく、食事をつくる保護者、スポーツの指導者にとっても間違いなく活用できるでしょう。このランチョンマットを使った食の指導では、保護者と子ども双方の食知識が向上したという調査結果があります。
③1皿に盛れる料理にする
主食、主菜、副菜を1つにまとめた料理を工夫して、それを1皿に盛るのも手です。
たとえば、酢豚は、たんぱく質が豊富な肉と、ビタミンやミネラルが豊富な野菜が使われているので「主菜+副菜」の料理、カレーライスは、ごはんと、肉や野菜を具材に使ったカレーがセットなので「主食+主菜+副菜」の料理、クリームシチューは、肉、野菜に牛乳が使われているので「主菜+副菜+牛乳・乳製品」の料理といえます。どれも1皿に盛るだけですし、料理の手間も省けるでしょう。